速さを生むドリルは単発の小技ではなく、フォームと配分を結び直すための設計図です。まずは水中で働く力をシンプルに捉え、入水の長さと前方への体重移動を軸に据えます。次に、キックと胸郭の波を同期させ、低い呼吸で抵抗を抑えます。最後にスタートとターンで得た初速を壊さず、距離別にピッチとストローク長の最適点へ導きます。この記事は現場で使える目安と手順にこだわり、今日の一本から迷いを減らすためのドリル群を段階的に紹介します。練習帳にそのまま落とし込める形で、平均速度の底上げにつなげていきます。
- 入水は遠く低く、前方ラインを毎本で再現します。
- 胸の波とキックを合わせ、上下動の幅を小さくします。
- 呼吸は顎だけを水面へ、視線は前下を保ちます。
- プルは前腕の面で捉え、手首の単独動作を避けます。
- スタートは浮上角と本数を固定し、初速を持ち込みます。
- ターンは壁前3動作を一体化し、失速を作りません。
- 距離別にピッチと長さの配分をテンプレ化します。
バタフライドリルで速さを磨く|運用の勘所
最初に全体設計を決めると、個々のドリルが連携して効いてきます。長さ→呼吸→キック→プル→スタート/ターン→配分の順で整え、観察ポイントを絞ります。目的は「正しく速いリズム」を作ることで、単発の強度上げではありません。
注意:目的と合わない強度で実施すると、ピッチだけが上がり長さが崩れます。長さが出ない日はピッチを上げず、入水距離の再現に戻ります。
以下の流れで一つずつ習得し、週ごとに戻って上書きします。水の状況や体調で感覚は揺れますが、観察の順序が変わらなければ迷いは減ります。
手順ステップ:
- 入水の到達点を決め、胸を前へ送り出す感覚をつかみます。
- 顎だけを出す低い呼吸を固定し、視線を前下に置きます。
- 1打目キックを入水と同期、2打目を押し出しに重ねます。
- 前腕で面を作るキャッチへ切り替え、手首の単独動作を排除します。
- スタート/ターンの浮上角と本数を固定し、1ストローク目の呼吸を遅らせます。
- 距離別にピッチとストローク長のテンプレを決めます。
Q&AミニFAQ:
Q. 何から直すべきですか? A. まず入水距離です。遠く低く届けば、キャッチとキックが噛み合い、他の修正が通りやすくなります。
Q. ピッチは上げますか? A. 長さが安定してから段階的に上げます。長さが崩れたら即座に元のピッチへ戻します。
Q. 何本で効果を感じますか? A. 同一条件で6〜10本のまとまりを作ると、体の波が揃い始めます。
設計の核は「前方ライン」
前方へ体重を運ぶラインが定まると、入水から押し出しまでの一連が滑らかになり、同じ力で進む距離が伸びます。腕を回す前に、胸で前へ滑る感覚を反復し、毎本の到達点を揃えます。これが全てのドリルの基準です。
長さを先に、ピッチは後から
長さが出ないままピッチを上げると抵抗が跳ね上がり、終盤の失速を招きます。初週は長さの安定だけに集中し、翌週からピッチを微増。1ストロークの情報量を増やし過ぎないことが継続の条件です。
呼吸は低く短く一定に
顎だけを出す低い呼吸は、頭の上下動を最小化し腰の位置を守ります。吸気は短く、水中での吐きを切らさないこと。呼吸が一定だと、キックとプルのタイミングも自動で揃い、ピッチ変更に耐えるフォームになります。
キックは波の「支点」
キックは推進の主役であると同時に、体の波を支える支点です。入水直後の1打は前方への移動を助け、押し出しでの2打は速度の谷を埋めます。膝主導ではなく股関節から柔らかく送り出し、足首の脱力を保ちます。
評価は平均速度で行う
一本ごとの感覚ではなく、区間の平均速度で評価します。長さが維持され、呼吸が低ければ、平均の底上げが起きます。時計の数字だけでなく、浮き沈み幅や入水音の静かさも合わせて記録します。
体幹と波をつくる基礎ドリル:入水と前方ライン

波は胸から作られ、腕と脚はそれに乗ります。ここでは入水から前方への体重移動を整えるドリルで、無駄な上下動を抑えます。遠く低い入水と胸の前送りがテーマです。
ミニチェックリスト:□ 入水音が小さい □ 指先が前を向く □ 胸が前へ滑る □ 顎は水面すれすれ □ 腰が沈まない □ キックは小さく一定 □ リカバリーは肩をすくめない
このチェックに毎本で丸を付けるだけで、改善点が自然に浮かびます。声掛けが少ない環境でも、セルフモニタリングで安定感を出せます。
事例:入水の到達点をレーンロープの結び目で固定。2週間で入水音が静かになり、100mの中盤失速が小さくなった。呼吸の高さも自然に下がった。
ベンチマーク早見:
・入水音は小さく短い。
・到達点は毎本±15cm以内。
・胸の前送りで腰の位置が上がる。
・視線は前下、顔の露出は最小限。
前方ラインが決まるとキャッチの面が作りやすくなり、プルの軌道も安定します。胸が前に滑ると脚が軽くなり、キックの上下幅を抑えられます。まずは「静かな入水」と「長い到達」を合言葉に、スピードを欲しがらず反復します。
片手スライドドリル
片手を前に長く残し、もう片手で優しく水を感じるドリルです。胸を前へ送りながら指先を遠くへ伸ばします。入水音を最小にし、前腕の面で水に寄り添う感覚を養います。呼吸は反対側で低く短く。
グライド+小キック
入水後のグライドを0.5秒だけ意図的に作り、胸を前へ滑らせます。1打目キックは入水の補助、2打目は押し出しに重ねます。小さなキックで足首の脱力を確認し、上下幅を抑えた波形を体に刻みます。
ヘッドダウンタッチ
入水直後に頭頂をわずかに沈め、顎を水面に触れるか触れないかの位置へ。視線は前下で固定し、前方へ体を送ります。頭を下げるほど腕は遠くへ伸び、長さが自動で生まれます。呼吸は1テンポ遅らせます。
キックとタイミングを合わせるドリル:2ビートと4ビート
脚の回数は増やせば良いわけではありません。巡航の2ビートと、加速の4ビートを場面で使い分け、波の位相をずらさないことが重要です。胸郭と骨盤の同期を可視化し、疲れても崩れないリズムを作ります。
メリット
2ビートで酸素負債を抑え、4ビートで短時間の加速を作れます。状況に応じた出力配分が可能です。
デメリット
4ビート偏重は上下動が増えがち。2ビート一本槍は切り替えに弱く、ラストの伸びを欠きます。
- 片脚タップで骨盤の送りと胸の波を一致させます。
- 2→4ビートの移行をターン後3ストロークで行います。
- 戻す時は呼吸を一定に、波の位相を壊さず減速を回避します。
- 足首は脱力、膝主導を避け、股関節から柔らかく打ちます。
- 加速は幅ではなく周波数の微調整で作ります。
ミニ用語集:
位相:胸と骨盤の上下のタイミング。
周波数:キックの回数ではなく波の速さ。
振幅:上下動の幅。小さいほど抵抗は少ない。
脚を増やすより「波へ乗る」ことを優先します。2ビートで波形を整え、必要な局面だけ4ビートへ。戻す時は呼吸を動かさず、胸の前送りを保つと失速が起きません。数字ではなく、静かな入水音と低い呼吸が合図です。
キックカウントドリル
25mで2→4→2ビートの順に移行し、壁ごとに回数を固定します。移行は押し出しの2打目を二分割する感覚で。呼吸は一定に保ち、上下動の幅を増やさないこと。切り替え時の入水音が変わらないかを確認します。
片脚フォーカス
片脚だけに意識を置き、股関節から柔らかく打つ感覚を作ります。左右差が小さくなるほど進行方向のブレが減り、上半身の波に乗りやすくなります。足首は脱力、膝はロックしない。呼吸は低く短く固定します。
フィン短区間
短いフィンで25m×6。波の周波数を少し上げ、胸の前送りと押し出しの2打目を一致させます。フィンの推力に任せず、入水の長さと静かな呼吸を優先。フィン無しへ戻したときに同じ波が残っているか観察します。
呼吸とリカバリーを安定させるドリル:低く短く一定に

呼吸が高く長くなると、腰が落ちリカバリーが重くなります。ここでは顎だけを水面に出し、前下視線と低い軌道で腕を返すドリルをまとめます。目的は「呼吸で崩れないピッチ」です。
| 要素 | 狙い | 合図 | 失敗例 |
|---|---|---|---|
| 顎の高さ | 露出最小 | 口角だけ出る | 額まで出て腰が沈む |
| 視線 | 前下固定 | 入水点の少し手前 | 正面を見て失速 |
| 吸気 | 0.3〜0.5秒 | 押し出しと同時 | 吸い過ぎで上体が浮く |
| 吐き | 水中連続 | 切れ目なし | 息止めで硬直 |
| リカバリー | 低く前へ | 肘の余裕 | 肩をすくめて引っ掛かる |
ミニ統計:
・呼吸を低くしただけで入水距離が平均で10〜20cm伸びる例が多い。
・無呼吸2〜4ストロークを挟むと終盤の減速が小さくなる日が多い。
・顎の露出が増えるほど上下動が増え、平均速度が落ちやすい。
よくある失敗と回避策:
吸い過ぎ:上体が浮きリカバリーが重くなる → 0.3秒で吸い切り水中の吐きを継続。
見上げ:進行方向が乱れ抵抗増 → 前下視線で胸の前送りを優先。
肩すくめ:肘が詰まり入水が近化 → 肘に余裕を残し低い軌道で前へ。
呼吸は「短く低く一定」の三要素で評価します。一定を守ると、ピッチ変更やキック移行をかけてもフォーム全体が崩れません。特に中盤の粘りは呼吸の質で決まり、終盤の無呼吸区間が意味を持ちます。
2カウントブレス
2ストロークに1回、顎だけで素早く吸います。吐きは水中で連続し、吸気は押し出しの後半に合わせます。視線は前下を維持。入水の到達点が毎本で揃い、リカバリーの引っ掛かりが減っていくのを確認します。
ノーブレステンポ
25mで途中4ストローク無呼吸にし、ピッチを維持する感覚を探ります。頭を下げ、胸の前送りで速度の谷を埋めます。無呼吸の間に入水が近化しないかを注視し、戻した後の呼吸の高さを一定に保ちます。
低軌道リカバリー
肘を柔らかく保ち、腕を低く前へ送る練習です。肩をすくめないように胸を前へ滑らせ、入水は静かに遠くへ。呼吸はわずかに遅らせ、押し出しの終盤に吸い切ります。軌道が低いほど腰の位置は安定します。
スタートとターンに効く水中ドリル:浮上角と本数の固定
スタートとターンは無料の加速帯です。水中で作った初速を壊さず、一定の浮上角と固定のドルフィン本数で水面へ持ち込みます。ここでは失速を作らないための実践ドリルをまとめます。
- 入水は浅く遠く、気泡を最小にします。
- ドルフィンは幅を小さく、回数を固定します。
- 浮上は角度を変えず、1ストローク目の呼吸を遅らせます。
- ターン前は見上げず、前下視線で最後まで滑らせます。
- 壁離れは体幹を固め過ぎず、波形を残します。
手順ステップ:
1. 入水角を15〜25度の範囲で一定化。
2. ドルフィン4〜6本を固定。
3. 浮上は15m以内で、最初の呼吸を遅らせる。
4. 浮上後3ストロークでレースのピッチへ接続。
注意:浮上で頭を上げると即減速します。角度を保ち、最初の呼吸は必ず遅らせます。
水中が整うと、同じフォームでも前半の貯金が増えます。壁前の一体動作と浮上後の3ストロークがレース全体のテンポを決め、終盤の粘りにも波及します。安定のカギは「固定値」です。
15mフラグドリル
ロープに印を付け、入水から浮上の距離と角度を固定します。ドルフィンの幅を小さく一定にし、気泡の少なさを指標に。浮上後は1本目を長く、2本目でピッチを合わせ、3本目で呼吸パターンをレース仕様にします。
壁前スルー
最後のストローク→グライド→タッチを同じ速度で繋ぐ練習です。見上げずに前下視線、胸の前送りで減速を作りません。壁離れでは体幹を固め過ぎず、波形のしなやかさを残すと初速が逃げません。
ノーファーストブレス
浮上後の最初の呼吸を必ず遅らせます。1ストローク目は長さを最優先、2本目でピッチを合わせ、3本目でレースの呼吸へ。ここが安定すると、中盤のテンポが崩れず、終盤の無呼吸区間にも余裕が生まれます。
応用ドリルセット:距離別の配分とメニュー設計
セットの組み方を距離別にテンプレ化すると、当日の判断が軽くなります。目的は平均速度の底上げであり、単発の自己ベストではありません。ピッチと長さの両輪を季節の中で育てます。
| 距離 | 配分の狙い | 呼吸 | キック |
|---|---|---|---|
| 50m | 高SRで押し切る | 0〜1回 | 4ビート多用 |
| 100m | 前半SL重視→後半SR | 前半3/後半2 | 2→4へ移行 |
| 200m | 巡航の質を最優先 | 通しで2 | 2ビート基調 |
Q&AミニFAQ:
Q. 調子が悪い日の指標は? A. 入水距離と呼吸の低さ。これが戻ればピッチは後から整います。
Q. 仕上げ期の量は? A. 2週前から量を少し落とし、水中と浮上の固定に時間を使います。
ベンチマーク早見:
・入水到達±15cm以内。
・顎の露出は最小。
・浮上は15m以内。
・ターン前の見上げゼロ。
・2→4ビート移行はターン後3ストローク。
テンプレは「固定→微修正」の順で回します。週の中で目的を混ぜすぎると、波形が散らばって成果が見えにくくなります。一本ごとに観察するのは、入水の静かさ、呼吸の低さ、浮上角の一定。これだけで十分です。
50m向けセット
15mフラグで浮上距離を固定し、浮上後3ストロークで加速を作ります。呼吸は0〜1回に決め、終盤は無呼吸区間で押し切り。4ビートの周波数をわずかに上げ、上下動の幅は大きくしないことを徹底します。
100m向けセット
前半は長さ優先、折り返し後にピッチを段階的に引き上げます。ターン後3ストロークでレーステンポへ接続。呼吸は前半3、後半2で固定。終盤の粘りは低い呼吸と前方ラインの再現性で生まれます。
200m向けセット
巡航の質が命です。入水の到達を毎本で揃え、2ビート基調で波形を安定。最後の50mだけピッチを少し上げます。呼吸は通しで2、無呼吸区間は短く挟んで速度の谷を埋めます。
まとめ
ドリルは単発のコツではなく、フォームと配分を結ぶ設計です。遠く低い入水と前方ライン、顎だけの低い呼吸、胸の波に合わせた2打と4打の使い分け。スタートとターンは浮上角と本数を固定し、1ストローク目の呼吸を遅らせます。距離別テンプレで目的を混ぜず、週ごとに微修正。観察するのは入水の静かさ、呼吸の低さ、浮上の一定だけ。今日の一本から順序を守り、短い反復で平均速度の底上げを続けましょう。時計は静かに、しかし確実に更新されます。


