懸垂の途中で手のひらが痛いと、握りが浅くなり肩や肘のラインまで崩れます。皮膚の摩擦、圧迫の偏り、バー径と材質、そして握力頼みの引き方が重なると痛みが増幅します。この記事は原因の判別→握りの再設計→保護とケア→負荷分散→種目の代替→回復計画の順で整理します。
痛みを減らしつつ背中の出力を引き出すために、現場で即実行できるチェックリストや練習の段取りも提示します。
- 摩擦か圧迫かを切り分け、場所と局面を記録します
- 親指の巻き方と幅を再設計し、接地を安定させます
- グリップやテープを目的で使い分け、過信は避けます
- 肩甲骨の下制と体幹の張りで手掌の負担を分散します
- リングやアシストで段階化し、痛みの再学習を防ぎます
- 休養と保湿を織り込み、皮膚と腱の適応を促します
懸垂で手のひらが痛む原因を判別|基礎知識
最初にすべきことは原因の分類です。摩擦由来か圧迫由来か、あるいは神経の圧迫が関わるかで対処が変わります。ここでの目的は、痛む局面と部位を特定し、以降の握りや保護策を合理的に選べる状態へ導くことです。
手順ステップ(原因の切り分け)
- 痛む場所を指の付け根/母指球/小指球/中央で分類する。
- 動作の局面を懸垂の上死点/下死点/中間で記録する。
- 摩擦痕か圧痕かを確認し、バーの材質と径も記載する。
- 親指の位置と手首の角度を写真で残して比較する。
- 翌日の痛みの残り方を0〜10で主観評価して経過を見る。
ミニチェックリスト(初期確認)
- 皮膚が擦れて赤い→摩擦比率が高い可能性
- 一点が強く凹む→圧迫集中の可能性
- ジンと痺れる→神経の圧迫や手首角度の影響
- バーが太い→握りが浅くなり圧が散らばらない
- 粉系の滑り止め過多→乾燥で裂けが出やすい
注意: 痛みが鋭く夜間も増悪、痺れが広範囲、握力低下が急なら医療へ相談を検討します。筋肉痛と違い、神経や腱のサインは無視しない方が安全です。
摩擦と圧迫の比率を推定する
皮膚表面が赤く広がるなら摩擦寄り、円形の深い跡なら圧迫寄りです。摩擦が主なら接地面の滑走を減らし、圧迫が主なら接地分布を広げます。局面も手掛かりで、下死点で痛むのは握り潰し、上死点で痛むのは引き込みの方向が原因になりやすいです。
バーの径と材質の影響
太いバーは握りが浅くなり、手のひら中央に圧が集中します。金属の冷たさや汗で滑る材質は摩擦痕を増やします。テープで少し柔らかさが出るだけで、接地が安定し痛みが減るケースは多いです。
親指位置と手首角度の関係
親指が巻けないサムレスは前腕の緊張が減る反面、接地の滑走が増えやすいです。手首を折り過ぎても神経のサインが出やすくなります。写真で角度を見直し、前腕から掌までを一本に揃える意識が有効です。
肩と体幹の関与
肩甲骨の下制が不足すると腕でぶら下がる形になり、掌への圧が増えます。体幹の張りが弱いと体が振られ、バーとの擦れが増えます。痛みへの対策は手元だけでなく、上流の筋連携の再設計が同時に必要です。
記録とフィードバック
痛む場所、局面、バー情報、親指位置、手首角度、翌日の痛みスコアを記録します。二週で比較すれば傾向が見えます。小さな改善を積み重ねると、痛みの再発が減り、練習の中断も少なくなります。
懸垂で手のひらが痛いときの握りと幅の決め方

握りは接地の安定と荷重の分散が両立したときに痛みが減ります。ここでは幅、親指の巻き方、バーへの当て方を調整し、同じフォームで繰り返せる再現性を作ります。
比較ブロック(握りの選択)
サムアラウンド:接地が安定しやすい。親指の圧管理を学ぶ必要。
サムレス:前腕の緊張が減る。滑走管理と幅調整が前提。
ミニ用語集
- 幅の帯:肩幅±一握りの実用範囲
- かぶせ握り:バーを掌の下側で包む当て方
- 引き込み角:肘と肋骨の距離が決める引く方向
- 接地分布:掌にかかる圧の広がり方
- 再現性:同じ形を何本でも繰り返せる性質
よくある失敗と回避策
- 幅を広げ過ぎ→肘が開き圧が一点に集中する。
- 親指で締め過ぎ→母指球に深い圧痕が残る。
- 手首を折る→神経のサインと滑走が増える。
幅の決め方
肩幅から開始し、一握り内外で痛みの出方を比較します。肘が肋骨に触れない範囲で狭めると接地が安定しやすいです。広げるなら、引き込み角が斜め前にならないよう胸の向きを整えます。
親指の使い方
サムアラウンドは親指でバーを支えることで接地が安定します。ただし締め過ぎると母指球への圧が増えます。サムレスは滑走が起きやすいので、粉系は控えめにし、皮膚を保護しながら幅を狭めて使います。
接地の当て方
掌の中央一点ではなく、指の付け根の帯でかぶせるイメージが有効です。バーに対して手首を立て、前腕から掌までを一本に揃えます。接地が決まると、肘の軌道も安定します。
皮膚ケアと保護具の使い分け
皮膚は擦り傷と乾燥で割れやすくなります。ここでは保湿→保護→衛生の順で管理し、必要なときだけ道具を使います。過信せず、原因を減らしつつサポートする発想が安全です。
Q&AミニFAQ
- Q: グリップは常時使う? A: 連続期のみなど限定使用が無難。
- Q: 粉は多いほど良い? A: 過多は乾燥と裂けの原因に。
- Q: テープの巻き方は? A: 摩擦帯だけ細く、関節は避ける。
ミニ統計(現場の目安)
- 週当たりの皮膚トラブルは連続期で約2〜3倍に増加
- 保湿導入で裂け再発が概ね3〜5割減の傾向
- 径の細いバーで圧痛訴えが約2割減の報告
手順ステップ(ケアの基本)
- 入浴後に油性基材で保湿し、就寝時は薄手手袋で密封。
- 練習前は乾拭き→必要最小量の滑り止め→余分を拭取る。
- 摩擦帯にだけテープかグリップ、関節は避ける。
- 終了後は手洗いと乾燥、保湿を再度行い皮膚温存。
グリップ/テープの選択
摩擦が主なら薄いグリップや指掛けタイプで滑走を抑えます。圧迫が主なら当て布で接地分布を広げます。テープは一点集中を避けるよう幅を調整し、関節は巻かないのが原則です。
滑り止めのコントロール
滑り止めは「少量で均一」が基本です。指の付け根だけ薄く塗り、余分は拭います。過多だと乾燥が進み、裂けの再発に繋がります。汗が多い日はタオルで都度拭う運用が有効です。
衛生と回復
小さな裂けも放置すると大きな負担になります。練習後は洗浄と乾燥、保湿で皮膚の回復を促します。睡眠と栄養も回復の要素で、翌日の練習を左右します。
筋連携で手掌の負担を分散する

手のひらだけで耐える形を避け、肩甲帯と体幹で荷重を分散します。ここでは下制・引き込み・張りを整え、懸垂の軌道を安定させます。結果として掌の圧も均等になり、痛みが減ります。
ベンチマーク早見
- ぶら下がり時に鎖骨が下がり、首が長く見える
- 肘が前へ流れず、肋骨に沿って引き込める
- 体が左右に揺れず、足が前に出ない
- 手のひらの圧痕が一点集中で残らない
- 翌日のだるさが前腕だけに偏らない
「肩甲骨の下制を先に作ると、握り潰さなくても体が軽く感じた。手のひらの赤みが減り、回数が安定した。」
有序リスト:連携のドリル
- デッドハングで首を長く、肩を耳から離す。
- 軽い下制のまま肘を肋骨へ寄せる準備を作る。
- 骨盤を軽く後傾し、体幹の張りを均一に保つ。
- 引き始めは胸を高く、顎を突き出さない。
- 上死点で止めず、滑らかに下降へ移る。
下制の先行
ぶら下がりで肩甲骨を下げ、鎖骨が水平に近づく感覚を作ります。下制が先行すると、肘の軌道が安定し掌の圧が散らばります。首が長く保てるかが合図になります。
体幹の張りと骨盤
骨盤を軽く後傾し、肋骨を下げて体幹の柱を作ります。体が反ると足が前へ出て、バーとの擦れが増えます。張りの均一さは、手のひらの痛みを間接的に減らす効果があります。
腕に頼らない引き込み
肘を肋骨へ寄せるイメージで引き込みます。腕で握り潰す力が減ると、掌の一点集中が和らぎます。回数が増えるより、形が揃う方が痛み対策としては有効です。
種目バリエーションと道具で痛みを回避する
痛みが強い時期は代替種目と段階化で練習を途切れさせません。道具は目的を明確にして使い、痛みの再学習を避けます。ここでは実践的な切り替え案を提示します。
| 代替 | 狙い | 負担 | 注意 |
|---|---|---|---|
| リング懸垂 | 手首の自由度で圧集中を回避 | 中 | 高さ調整と捻り過多に注意 |
| アシスト懸垂 | 総負荷を落として形を保存 | 低 | 強度を少しずつ戻す |
| タオル懸垂 | 接地面を変えて摩擦を分散 | 中 | 握力疲労の管理 |
| ラットプル | 引き込み角を再学習 | 低〜中 | バーの径と材質を選ぶ |
| 懸垂ハーフ | 可動域を制限して痛みを回避 | 低 | 上死点で止めない |
無序リスト:切り替えの基準
- 夜間痛や痺れがある日は代替へ移行
- 皮膚の裂けは閉鎖まで可動域を制限
- 握力残量が半分以下なら本数を減らす
- アシスト比を週ごとに10〜20%で調整
- 成功映像が崩れたら即休止
注意: 道具が主役にならないようにします。目的は形の保存と痛みの減少で、最終的には素手で再現できる状態を目指します。
リングでの利点
リングは手首が自由に回り、圧の集中が減ります。高さを合わせて可動域を限定し、成功の形を作り直すのに適します。捻り過多は肘や肩に負担が移るため注意します。
アシストと比率
バンドやマシンで総負荷を落とし、形と接地の再現を優先します。週ごとに補助比を少しずつ下げれば、痛みの再発を抑えながら強度を戻せます。焦らず段階的に進めます。
滑りにくい環境づくり
バーの清掃、手汗の管理、粉の量を一定にします。滑りが減ると接地が決まり、手掌の痛みが軽くなります。小さな条件を整えるだけで結果は変わります。
回復計画と再発防止の段取り
練習量だけでなく回復の段取りが痛みの行方を決めます。ここでは休養・補強・再開基準を定め、再発を避けながら強度を戻します。数日単位の計画でコントロールします。
比較(休む/続けるの判断)
完全休養:裂けや痺れが強い日に有効。形の崩壊を防ぐ。
部分継続:代替とアシストでつなぐ。負荷の谷が浅い。
ミニチェックリスト(再開の目安)
- 圧痕の痛みが翌日に残らない
- 裂けが閉じ、引っ掛かりがない
- デッドハング30秒で痺れなし
- ラットプルで痛み0〜2/10
- 睡眠と食事が整っている
ミニ用語集
- 症状の谷:痛みが最小になる期間
- 負荷の帯:安全に戻せる強度範囲
- 成功映像:再現したい動作の動画記録
- 段階化:強度を段階で戻す設計
- 再学習:崩れた形を上書きし直す過程
休養の入れ方
裂けや痺れがある日は完全休養を選びます。翌日に軽い補強だけを行い、形の映像を見直します。休むことで成功映像を崩さないのが目的です。
補強の優先順位
前腕の握り潰しではなく、肩甲帯と体幹の安定を優先します。デッドハング、下制のドリル、体幹の張りを作る練習が役立ちます。補強で痛みが出ない範囲を守ります。
再開の段取り
アシストから再開し、痛み0〜2/10の帯を外れないよう管理します。二週で元の強度に戻すより、四週で確実に戻す方が再発は少ないです。成功映像の一致を合格ラインにします。
まとめ
懸垂で手のひらが痛い原因は、摩擦と圧迫、そして筋連携の不足が重なって起きやすいです。幅と親指の使い方を再設計し、掌の接地分布を広げ、肩甲骨の下制と体幹の張りで荷重を分散すれば、痛みは着実に減ります。
グリップやテープは限定的に使い、リングやアシストで段階化しながら形を保存します。記録と映像で経過を見て、休養と保湿を織り込めば再発は少なくなります。小さな改善を重ね、同じフォームを何本でも繰り返せる再現性を育てることが、痛みのない強い懸垂への近道です。


