週5で全身法を組むと聞くと過剰な疲労を心配しがちですが、刺激の大きさと回復の噛み合わせを丁寧に整えれば、むしろフォームの反復が増えて学習効率は上がります。
本稿は「一日の密度を上げすぎない」「累積疲労を翌日に持ち越さない」「週内で刺激部位を散らす」の三原則で、具体的な配分とテンプレートを提示します。可動域とテンポ、RIR(余力回数)とRPE(主観強度)を併用し、伸ばしたいリフトに焦点化しながらも全身の調和を崩さない道筋を示します。
- 一日あたりの主種目は2つまでに抑える
- 全身の要を占める押す引く下半身を毎回触れる
- 各部位の週合計セットを先に決めて日割りする
- フォーム学習日はRIR2〜3で丁寧に反復する
筋トレの全身法を週5で運用する前提
最初に決めるべきは目標の優先度と回復の現実性です。週5という頻度の利点は、一回あたりのボリュームを小さく保ち、技術練習を高頻度で回せることにあります。ここでは回復とボリュームの整合、RIRとテンポの統一、栄養と睡眠の前提を短い指針で固めます。
回復とボリュームの基本を数で捉える
全身法の週5では、大筋群(胸背脚)それぞれの「有効セット数」を先に設定します。目安として週10〜16セットの範囲で設計し、1日あたりは2〜4セットに分配します。1セッションの総セットは12〜16を上限とし、うち技術性の高いリフトを最初に配置します。
可動域とRIRの目安を固定する
可動域は「痛みなく、姿勢を保てる最深」を原則とし、基準動画を一度撮影して残します。RIRは平日を中心に2〜3、週の終盤で1〜2へ寄せ、上死点のロックや反動に頼らないテンポ(下ろし2〜3秒、押しは力強く1秒)を守ります。これにより疲労の波形が穏やかになります。
種目選定の核と代替パターンを用意する
押す(ベンチ/ディップス系)、引く(ロー/プルダウン系)、下半身(スクワット/ヒンジ系)を骨格に、補助で肩・腕・体幹を薄く散らします。同じ動作パターンで強度段階の違う代替(例:ハイバースクワット⇄スプリットスクワット)を準備し、混雑や体調に応じて差し替えやすくします。
テンポと休息の管理を言葉で合わせる
テンポは下ろし2〜3秒/切り返しを止めない/押し1秒を基本に、休息は多関節で90〜150秒、単関節で45〜75秒を目安とします。タイマーを活用し、休息が短すぎてフォームが崩れる連鎖を防ぎます。息を吐き切らない微妙な腹圧維持も全身法の安定に効きます。
栄養と睡眠の前提を週単位で準備する
週5では摂取の漏れが結果に直結します。トレ直後の炭水化物とたんぱく質を確保し、就寝リズムを乱さない工夫(入眠90分前の入浴、カフェインの時間管理)を優先します。摂取の一貫性が整えば、ボリュームを足してもコンディションは乱れにくくなります。
注意: 体調の谷が2日以上続くときはRIRを+1に広げ、補助種目を半分へ。強行ではなく設計の微調整で乗り切ります。
手順ステップ(週5全身法の立ち上げ)
- 胸背脚の週合計セットを決めて日割りする
- 各日2種目を主役に据えテンポとRIRを統一
- 代替種目リストを事前に用意して混雑に対応
- 休息時間をタイマーで固定し集中を守る
- 初週は重量を控え、動画で基準を作る
ミニ用語集
- RIR:残せる回数。余力で疲労を制御
- RPE:主観強度。日ごとの調整に活用
- テンポ:動作秒数。学習のリズム作り
- ヒンジ:股関節主導の曲げ伸ばし
- 有効セット:刺激が閾値を越えた反復群
週5の分割モデルと一日の流れ
全身法でも「主役」を日ごとに変えると疲労は拡散します。ここでは実運用で迷いが出やすい配分と、1セッションの構造、他の運動との両立までを具体化します。色分けはしませんが、押す/引く/下半身の位置づけを明確にします。
月火木金土の配分例
月:押す主役+引く補助+下半身軽め。火:下半身主役(スクワット系)+押す軽め。木:引く主役(ロー系)+下半身ヒンジ。金:押す主役(角度違い)+体幹。土:下半身主役(片脚系)+引く軽め。水日は回復と可動に充て、歩行やストレッチで循環を促します。
セッション設計と所要時間
各日60〜80分を基準に、準備10分/主役2種目40分/補助10〜20分で構成します。主役には3〜5セット、補助は2〜3セットをあて、合計12〜16セットに収めます。最初の多関節で神経系を目覚めさせ、後半で局所の刺激を整えます。
有酸素や競技との両立
有酸素を入れる場合は低強度を平日朝か夜に20〜30分、インターバルは週1回を上限に配置します。競技練習がある日はRIRを1広げ、補助種目を削減します。全身法は「毎回全身に触れる」ことが本質で、すべてを全力で行う必要はありません。
比較ブロック(スプリットと全身法の違い)
部位分割
- 一部位のボリュームを一気に入れやすい
- 筋肉痛が強く出やすい
- 休みや出張で抜けると調整が難しい
全身法週5
- 技術の反復頻度が高く学習が速い
- 1回の疲労が軽く翌日に残りにくい
- 欠席時も週内でボリューム補正しやすい
ミニチェックリスト(当日の流れ)
- 主役2種目を最初に決めて入場する
- 休息をタイマーで管理し雑談で伸ばさない
- RIRが詰まったら補助を削り寝不足を補う
- 退館前に次回の主役をメモしておく
全身法のプログレッション設計
伸び続けるためには「いつ上げるか」を迷わないことが重要です。ここでは週次と月次の進め方、停滞時の分岐、主観と客観を結ぶRPE/RIRの使い分けを整理し、過負荷の一貫性を確保します。
週次と月次の上げ方
基準は「同重量で規定回数を2週連続で上回れたら+2.5〜5%」。可動域やテンポが崩れたら重量は据え置き、RIRを1広げて整えます。月の第4週はボリュームを7割へ落とし、可動とフォームの再学習に充てます。
停滞時の分岐
2週間以上更新がない場合、①休息延長(+15〜30秒)、②主役の順序入替、③補助の種目変更(同パターンで関節負担の軽いもの)を試します。睡眠不足が続いた週は重量更新を狙わず、丁寧な反復で神経系の調子を戻します。
RPEとRIRの使い分け
日々のばらつきを吸収するにはRPEのメモが有効です。RIRと対で記録すると、同じRIRでも体感が軽い日が分かり、更新のチャンスを逃しにくくなります。RPEの傾向が重くなったらデロードのサインです。
ミニ統計(現場実感の傾向)
- 週5でRIR2中心は疲労の波が穏やかになる傾向
- 月末デロードで翌月の更新率が上がる傾向
- RPEの記録継続で過負荷の失敗が減る傾向
手順ステップ(重量更新の判断)
- 基準セットの動画とログを確認する
- 同重量で2週連続達成なら+2.5〜5%
- 崩れが出たらRIR+1でフォームを整える
- 第4週は7割ボリュームで回復を優先
注意: 更新に固執して関節の違和感を無視しない。痛みは設計の見直しサインです。
安全と障害予防のチェック
頻度が高いほど小さな崩れが累積します。肩・腰・膝の赤信号を言語化し、ウォームアップの骨子と、典型的な失敗を潰す具体策をまとめます。安全は強さの前提であり、週5を継続する最大の投資です。
肩腰膝の赤信号を見逃さない
肩の鋭い前側痛、腰の痺れ、膝の刺す痛みは中断の合図です。可動域を一段浅くし、角度やグリップ幅を調整しても消えない場合は種目を差し替えます。違和感の位置を言葉で残すと、再発の予防に直結します。
ウォームアップ手順を固定する
- 関節の大きな円運動と呼吸で体温を上げる
- 主役種目の可動域確認を空負荷で行う
- 50→70→90%のブリッジセットを1〜3回
- 最初の本セットはRIR3でフォーム確認
よくある失敗と回避策
休息が短すぎて後半のフォームが崩れる、テンポが速まり反動に頼る、補助を盛りすぎて翌日に疲労を残す——これらはすべて設計の問題です。休息タイマーを使い、補助は狙いを1つに絞って質を保ちます。
ベンチマーク早見(安全確認)
- 可動域は痛みなく姿勢を保てる最深で止める
- 上死点でロックせず呼吸を止め続けない
- 関節の鋭い痛みは即中断し代替へ切替
- 翌朝のこわばりが強い日はRIRを広げる
- 週末はフォーム動画で基準を再確認
忙しい人のための短縮テンプレ
時間がなくても全身法の骨格は維持できます。45分で完結するメニュー、ホームジムでも再現できる代替、出張時に最低限の刺激を残す方法を提示します。短くしても主役2種目の原則は守ります。
45分テンプレ(平日用)
| フェーズ | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 準備 | 関節回しと可動確認 | 5分 |
| 主役1 | 押す/引く/脚のいずれか | 15分 |
| 主役2 | 別パターンを1つ | 15分 |
| 補助 | 肩腕or体幹から1〜2種目 | 10分 |
ホームジム代替の工夫
可変式ダンベルとフラットベンチ、チューブがあれば構築可能です。プル系はワンハンドロー、脚はブルガリアンスクワットとヒップヒンジで置き換え、押すはダンベルベンチとオーバーヘッドプレスを柱にします。可動域を広く取り、RIRは常に2以上を守ります。
出張時の最少セット戦略
ホテルジムでは主役を1つに絞り、他は自重で補います。月:押す、火:引く、木:脚、金:押す、土:脚のように、偏りを出さず反復のリズムを守ると、帰還後の復帰がスムーズです。
注意: 短縮版では重量更新を狙わず、テンポと可動の再現を最優先にします。
ミニFAQ(3問)
Q. 45分で強くなれる?
A. 週5の頻度が補い、主役2種目の一貫性があれば十分伸びます。
Q. どの部位も触れない日は作る?
A. いいえ。軽くでも全身に触れるのが全身法の核です。
Q. 有酸素はいつ入れる?
A. 刺激の軽い日に低強度20分を添えるのが相性良好です。
成果の可視化と見直しの仕組み
継続の鍵は「よかった」の感想で終わらせず、数字と映像で確かめることです。記録を簡潔に、動画で基準を固定し、月次レビューで設計を微調整すれば、同じ努力でも伸び幅が広がります。
記録方法を最小限にする
各日1行で「主役2種目/重量回数/RIR/体感/睡眠時間」をメモします。余白に関節の違和感や成功の言葉(合図)を書き、翌日の修正に直結させます。書く負担を減らすと継続率が上がります。
動画とフォーム指標
月の初週に正面と側面を撮り、膝の軌道、骨盤の向き、バーの軌道を確認します。テンポが速まっていないか、上死点でロックしていないかを点検し、次の月の課題を1つだけ選びます。
月次レビューのやり方
①重さ/回数の推移、②RPEの平均、③痛みと睡眠の記録を並べ、更新の止まり方を観察します。止まった原因がフォームか回復かを切り分け、翌月はボリュームか強度のどちらか一方だけを変えます。変更は小さく、効果を見極めます。
ミニチェックリスト(レビュー項目)
- 主役2種目の更新回数
- RPE平均と最頻値
- 痛みや違和感の位置と頻度
- 睡眠時間と昼間の眠気
- 可動域とテンポの維持度合い
事例引用(改善の糸口)
「補助を削り休息を伸ばしただけで、ベンチの停滞が解けました。週5でも疲労が残らなくなり、フォームの再現性が上がりました。」
まとめ
全身法の週5は「軽やかな一日」を積み重ねる設計が鍵です。主役2種目に集中し、ボリュームは週で整え、RIRとテンポを共通言語にします。疲労の谷では補助を減らし、睡眠と栄養で回復の土台を守ります。動画と短い記録で基準を固定すれば、迷いは減り、更新のタイミングを逃しません。忙しさや環境の制約があっても、代替と短縮の工夫で「触れる頻度」を保てば学習は進みます。継続できる設計こそが強さを生み、翌月の自分を押し上げます。

