レッグプレスの数字は伸びているのにスクワットへ直結しない、そんな悩みは珍しくありません。角度45度のスレッド構造、摩擦や可動域の差、体幹の安定度などがズレを生みます。そこで本稿では、「力学ベースの簡易式」×「個人係数」で、45度レッグプレスをスクワットに換算する実務的な道筋を示します。
単なる倍率ではなく、マシン差や当日の調子を織り込むことで、日々の重量設定や目標設計が具体化します。
- 45度の力の分解で有効負荷を見える化
- 摩擦と可動域の差を補正する前提を定義
- 個人係数を作り換算の再現性を確保
- プログラムに落とす運用テンプレを提案
- ベンチマークで進捗と安全性を両立
45度レッグプレスをスクワット換算する基準|短時間で把握
最初に枠組みを共有します。「レッグプレスの外力」→「軸方向の必要力」→「スクワットの外負荷」という順で対応づけると、換算の筋道がはっきりします。ここで重要なのは、重さそのものよりもどの方向にどれだけの力を発揮したかです。
単純比較が難しい理由
スクワットは重力方向へ抗う全身の挙上運動で、体幹の抗回転や足圧管理が結果を左右します。一方45度レッグプレスはスレッド上を直線移動するため、体幹負担やバランス要求が相対的に小さく、同じ「数値」でも関与する制御課題が異なります。つまり、純粋な筋力の一側面だけを強調しやすく、バーを担ぐ技術や姿勢保持の成分が換算から抜け落ちやすいのです。
力の分解と有効負荷
45度では、総重量Wを斜面に沿う成分W·sin45°と、面に垂直な成分W·cos45°に分けられます。可動は斜面方向ですから、必要な最小力はW·sin45°に摩擦由来のW·μ·cos45°を加えた和になります。ここでμはスライド部の摩擦係数です。式は必要力=W(sin45°+μcos45°)となり、摩擦や整備状態が変われば必要力も動きます。
摩擦とメカ差が与える誤差
同じ45度でも、ローラー式かスライダー式か、ガイドの材質や潤滑状態、初期ソリ重量、足台の高さで発揮感は変わります。μが0.05と0.15では、必要力が約7〜10%違ってきます。メカ差を無視した固定倍率は実戦でブレやすく、最初に「自分のジムのマシンでの係数」を把握するのが近道です。
可動域と筋活動の違い
スクワットは股関節と膝関節の同時屈曲伸展で、骨盤の傾きや胸郭角度が大きく関与します。レッグプレスは腰背部の角度が固定されやすく、深さの取り方も異なるため、同じ外力でも関節トルク配分は一致しません。換算は「同じ刺激を狙う目安」であり、フォームや狙いに応じて上下させる柔軟性が欠かせません。
式と運用の前提
換算式があっても万能ではありません。注意: 膝や腰に違和感がある日は、計算値より保守的に設定し、痛みや代償の有無を優先指標に切り替えます。式はあくまでスタート地点です。
手順
- 自ジムのマシン仕様(初期ソリ重量・ガイド方式)を確認
- 摩擦の目安を計測または仮置き(μ0.05〜0.15)
- 必要力=W(sin45°+μcos45°)を算出
- スクワット等価の個人係数kを別途作成
- 等価重量=必要力×kで運用し動画で微修正
ベンチマーク早見
・μ0.10の整備良好機でW×0.78前後が必要力
・ノービスはk0.50〜0.60、経験者はk0.60〜0.75が初期目安
・深さを揃えた時のRPE差で微修正
・週毎に±2.5%刻みで追従
45度の力学と摩擦の影響を可視化する

前節の式を具体化します。sin45°=cos45°≒0.707なので、必要力はW×0.707×(1+μ)です。ここから「同じWでもμで何割変わるか」が見えてきます。ジムのメンテ状況やメーカー差を把握するために、目安表を作っておくと便利です。
| 摩擦係数μ | 係数(0.707×(1+μ)) | W=100kgの必要力 | W=200kgの必要力 | メモ |
|---|---|---|---|---|
| 0.00 | 0.707 | 約70.7kg | 約141.4kg | 理想条件 |
| 0.05 | 0.742 | 約74.2kg | 約148.4kg | ローラー良好 |
| 0.10 | 0.778 | 約77.8kg | 約155.6kg | 一般的目安 |
| 0.15 | 0.813 | 約81.3kg | 約162.6kg | 整備やや不足 |
| 0.20 | 0.848 | 約84.8kg | 約169.6kg | 抵抗感大 |
| 0.30 | 0.919 | 約91.9kg | 約183.8kg | スライダー摩耗 |
「楽さ」と必要力のギャップ
同じ必要力でも、体幹安定の要求が低いレッグプレスは主観RPEが下がりがちです。そのため、計算上の等価重量が同じでもスクワットでは「重く」感じることがあります。これは換算式の問題ではなく、課題構造の違いです。プログラムでは主観RPEの差を前提に、セット数やテンポで刺激量を合わせます。
比較:レッグプレス換算を使うメリット/デメリット
メリット:客観的な指標ができ、マシン中心の時期でも脚トレの進捗を追跡できる。
デメリット:フォームや深さが違えば同値でも刺激が変わり、過信するとスクワットでの失敗率が上がる可能性がある。
ミニ用語集
必要力:スレッドを動かすために軸方向へ必要な最小の外力。
μ:摩擦係数の略。ガイドと車輪の抵抗の指標。
k:個人係数。スクワットへ換算するための個体差補正。
スクワット換算の計算式と個人係数の作り方
使う式はシンプルです。必要力=W(sin45°+μcos45°)、そして等価スクワット重量=必要力×k。このkは人によって違いますが、数回のテストで実用的に決められます。固定倍率よりも再現性が高く、メカ差にも強い方法です。
kの決め方ステップ
1) スクワット5RMを正確に測り、フォームを動画で確認します。2) 同週にレッグプレスで近似RPEの5RMを取り、Wとμを把握します。3) 式から必要力を出し、k=スクワット5RM/必要力と定義します。4) 別日の3RMでも検証し、二つの値の中間で初期kを決定します。5) 深さや足幅を揃えた上で、翌週に±0.03〜0.05の範囲で微修正すると実戦値に収束します。
目安データの活かし方
経験的に、スクワット経験の浅い人ほどkは低く出やすく、体幹や足圧の学習が進むほどkが上がっていきます。高ボリューム期は疲労でkが一時的に低下し、ピーキング期には上昇気味になる傾向も見られます。固定ではなく、期分けごとにkを再計測するのが運用コツです。
チェックリストでブレを抑える
テスト時は、レッグプレスの足位置・スレッドの可動域・テンポ・深さ基準をスクワットと揃えます。ソリ重量の扱い(プレートだけか、ソリを加えるか)も統一し、ウォームアップの刻みを同じにします。測定間隔は3〜4週間おきが目安です。
ミニ統計
・ノービス:k=0.50〜0.60が多い
・中級者:k=0.60〜0.70に収束しやすい
・上級者:k=0.68〜0.75も出るがフォーム安定が前提
手順まとめ
- スクワット5RM・レッグプレス5RMを同週で取得
- μを仮置き(例0.10)して必要力を計算
- k=SQ5RM/必要力を算出し初期値に
- 3RMでも再計測し平均化
- 翌週から±0.03刻みで微修正
個人差とマシン差を補正する実践ポイント

換算の精度は、可動域・足幅・足圧・テンポの整合で上がります。マシンの角度は同じでも座面角や足台の高さが違えば関節角度が変わるため、「自分の標準フォーム」を固定しましょう。以下のポイントをセット前に確認します。
整合を取る設定
- 可動域:膝90度以下まで下げる深さを一定化
- 足幅:スクワットでの標準幅±1足以内
- つま先角:左右15〜30度の範囲で固定
- テンポ:下降2秒停止0.5秒挙上エクスプロード
- 足圧:母趾球・小趾球・踵の三点荷重を維持
- 座面:骨盤後傾が出ない角度に微調整
- ソリ重量:計算に含める/含めないを統一
- グリップ:ハンドルの押し込みで腰を逃がさない
Q&Aでよくある疑問を解消
Q. 足幅を広げると換算は変わる?
A. 股関節主導になり膝トルクが相対減、同じ必要力でも主観RPEが下がることがあります。kの再測定を推奨します。
Q. ソリ重量はカウントする?
A. 必要力のWに足すのが原則。ジム掲示の値を採用して統一します。
ありがちな失敗と回避策
失敗1:深さが毎回違う → 回避:底で一拍止め、膝角のスナップショットを残す。
失敗2:座面で骨盤後傾 → 回避:座面角を起こし、足台をやや下げる。
失敗3:ハンドルへ強く依存 → 回避:軽中重量は握らず、腰背の張りで支える。
プログラム設計に落とし込む:現実的な使い方
換算は数字遊びではありません。「狙う刺激」と「全体疲労」の管理に役立てることで価値が生まれます。ここでは期分け別の使い方と、セット処方のテンプレを提示します。
期分け別の活用
筋量期はレッグプレスのボリュームを増やし、換算でスクワット相当の刺激量を担保します。テクニック期はスクワット中心に戻し、レッグプレスは弱点補強へ。ピーキング期はRPE基準で換算重量を下げ、疲労と関節負担を抑えます。
比較:換算運用の長所短所
長所:下肢の出力を客観化しやすく、脚トレの代替日でも進捗が読める。
短所:体幹や足圧の学習は換算できず、スクワットの成功率と乖離が生じることがある。
ベンチマークとケース
例:レッグプレスW=250kg、μ=0.10の5RMなら必要力は約195kg相当。k=0.62の人は等価SQ5RM≈121kgが初期目安。ここからRPEや動画を見て±2.5%で調整します。
「換算を信じ過ぎず、ズレたらkを直す」。この姿勢が結果的に最短です。スクワットが伸びれば、kも少しずつ上がっていきます。
よくある疑問とケースで学ぶ換算の使い方
最後に現場で頻出する問いを、短いケースとともに整理します。机上の式だけでなく、RPE・動画・痛みの有無を同時に見ると、意思決定がぶれません。
ケース別の運用手順
- スクワット不調週:換算値−5%でプレス増やし体幹種目を維持
- 膝違和感:深さを2cm浅くし換算値−10%でテンポ管理
- ピーク直前:プレスは換算値−7.5%でRPE7に制限
- フォーム改造中:kを一旦−0.03し3週後に再評価
- 新ジム移籍:μを0.05→0.12に変更し必要力再計算
- 時短トレ期:プレス先行でボリューム確保しSQは技術2セット
- 減量期:RPE感度上昇を見込み換算値−2.5%で様子見
- 増量期:回復余地に応じ+2.5%ずつ上限探索
Q&Aショート
Q. どのμを選べば良い?
A. ガイドが滑らかなら0.05〜0.10、抵抗感が強ければ0.15前後を仮置きし、テストで合わせます。
Q. kは一度決めたら固定?
A. 期分けやフォーム変更で見直します。3〜6週ごとが目安です。
ミニ統計での目安
・深さをスクワット同等に揃えると、主観RPE差は平均で−0.5〜−1.0。
・μの0.05差は必要力に約3.5%の影響。
・kを±0.03動かすと等価重量はおおむね±3%前後動く。
まとめ
45度レッグプレスの数値をスクワットへ移すには、角度と摩擦の力学、そして個人差を織り込むことが欠かせません。必要力=W(sin45°+μcos45°)を基盤に、自分専用のkを作れば、ジムや時期が変わっても迷いにくくなります。
プログラムでは、筋量期に換算でボリュームを設計し、技術期にスクワットへ重心を戻す運用が現実的です。可動域・足幅・テンポ・座面角を揃え、動画とRPEで検証しながら、kを±0.03刻みで育てていきましょう。数字は地図、現場は地形です。式に頼り過ぎず、痛みや動きの質を最優先に、進捗と安全性を両立させてください。


