デッドリフトのマックス換算を正確に見極める|換算式比較とセット設計の基準

barbell_squat_back 重量換算と目安
デッドリフトはその日の体調や床面の摩擦、フォームの小さな差で挙上重量がぶれやすい種目です。だからこそ、毎回のテストをせずに1回最大挙上重量(1RM)を推定するマックス換算が役に立ちます。換算式には得手不得手があり、反復回数、主観的運動強度(RPE)、バーの移動速度など入力の選び方でも結果が変わります。この記事では、換算式の比較と誤差の扱い方、速度やRPEを軸にしたオートレギュレーション、フォーム差の補正、現場での落とし込みまでを段階的に整理します。最後にチェックリストと進捗管理の具体例も添え、今日から安全に活かせる実用性を重視しました。

  • 換算式は3〜5回域で安定しやすく、10回超は誤差が増えます。
  • RPE8付近は練習量と安全性のバランスが取りやすいです。
  • 相撲型は同体重のコンベに比べ速度が落ちにくい傾向です。
  • 疲労が残る日は推定値から−2.5〜5%で設計します。
  • 踏み面やバー径の違いは記録にメモして再現します。
  • AMRAPは年数回で足り、週次はRPEで十分に置換できます。
  • デロード後は換算を一度リセットし再較正します。

デッドリフトのマックス換算を正確に見極める|使い分けの勘所

最初に、推定値を何に使いどこまでを許容誤差とするかを明確にします。換算は目的により求める精度が変わり、誤差への態度も変わります。練習日のボリューム設計、週単位の漸進、テスト日の安全確認、試合ピーキングの基準といった用途で、同じ式でも判断が違ってきます。ここではデッドリフト特有の特性を踏まえ、過度な精密さを求めず“再現性”を優先する視点を共有します。

推定1RMを使う場面の切り分け

練習日の目的が筋量向上か出力最大化かで、求める換算の性格は変わります。筋量狙いの高回数域ではレップ終了の主観が入りやすく、RIR(残レップ)判定のばらつきが誤差を生みます。出力狙いの低回数域ではフォーム厳守と集中で再現性が高まり、換算は比較的安定します。したがって、週のメインセットを3〜5回域に寄せて推定を最新化し、周辺の補助種目は相対強度のパーセンテージで管理する、という運用が妥当です。

ウォームアップと測定条件の統一

換算の前提は条件の統一です。バー径、プレート高さ、リフティングシューズのソール硬度、チョークの有無、ストラップ使用などを固定すると、同じ式でも誤差が縮みます。ウォームアップはバーベル→40〜60%→70〜80%→メインセットという一貫した階段で、各セット2〜3レップ、休憩は2〜3分とします。条件が崩れた日は、推定1RMから−2.5〜5%の控えめな運用へ切り替えるだけで過負荷を避けられます。

疲労と日内変動の影響

睡眠不足や脚背面の張り、グリップ疲労は速やかにバー速度を落とします。朝と夜でも神経系の働きに差が出るため、同一時間帯のトレーニングは再現性の味方です。どうしても時間帯が動くなら、ウォームアップ最後の1〜2レップの体感速度を記録し、平常とのズレを目安に当日の%を微調整します。日内差が大きい人は、相対強度を固定せずRPEで上限を切る方が安全です。

怪我歴や可動域制限の考慮

腰部やハムストリングスに既往がある場合、ヒンジの深さを抑えた可動域短縮は合理的です。ただし可動域が変われば換算の前提も変わり、過去の推定値と単純比較できません。可動域を変えたら“別の種目”として記録することが、換算の信頼性を守る近道です。ラックプルやデフィシットを併用する場合も同様に、種目タグを分けて管理します。

データ記録と再現性の確保

推定1RMの価値は、単発の数字ではなく“流れ”です。各セッションで重量・回数・RPE・主観速度・バーの粘り始めの位置を短文でメモします。記録は月次で振り返り、上昇傾向が止まったらボリュームや頻度に手を入れます。同じ条件で同じ結果が出ることが担保されれば、換算はピーキングや重量選択に十分役立ちます。

注意:換算は“安全係数込み”で用います。実重量の目安に+0%〜−5%のバッファを設けると、疲労日や床の滑りの影響を吸収できます。

以下は小さなデータでも有用な指標の例です。

・5回域の推定誤差:±2〜4%(フォームが安定している場合)。
・8回域の推定誤差:±4〜7%(主観の影響が増大)。
・RPE±0.5のズレが推定に与える影響:±1〜2%。

実務での進め方を段階に分けます。

ステップ1:3〜5回で動作品質を確認し、RPE8前後のセットを1本確保します。
ステップ2:そのセットを入力に換算し、当日の上限重量を決めます。
ステップ3:翌週は同強度でボリュームのみ拡張、3週目に小幅増量、4週目に再評価へ。

小規模な統計でも傾向は読み取れます。3週間のログで十分に意思決定が可能です。
・週1頻度の上昇率:+1〜1.5%/週。
・週2頻度の上昇率:+1.5〜2%/週(疲労管理が前提)。
・デロード明けの反発:+2〜4%(48〜72時間の回復期間)。

換算式の比較と選び方の基準

換算式の比較と選び方の基準

換算式は多数ありますが、どれか一つが絶対に優れるわけではありません。式には作成時のデータ母集団、対象種目、回数域などの前提があり、自分の反復特性に近い式を選ぶのが実戦的です。ここではよく使われる代表的な式の傾向を比較し、どの回数域で扱いやすいか、初心者と中上級者での相性を踏まえて選択の軸を示します。

主要換算式の前提と得意領域

Epleyは中回数で安定し、Brzyckiは低〜中回数で堅実、Lombardiは高回数にやや強気、MayhewやWathanは中上級のベンチデータ寄りという印象を持つ人が多いです。デッドリフトへの適用では、5回以内ならEpleyやBrzyckiが扱いやすく、8回以上はLombardiの推定が近づくケースが見られます。まず3〜5回域で複数式を試し、自分の結果に一貫して近い式を“基準式”に据えるのが現実解です。

体重や性別での偏りの見方

軽量級は回数耐性が高く、同じ%でもレップが伸びやすい傾向があります。逆に重量級は神経系の消耗が先に来て、同回数でも推定1RMが控えめに出ることがあります。女性は筋持久の優位から中回数域での推定が高く出やすく、低回数の推定は男性と大差が出にくい場面があります。こうした傾向を“自分の場合”に落とし込み、式を1つ選び、他の式は補助指標に回すとぶれを小さくできます。

初心者・中上級の使い分け

初心者はフォームの習熟が進む過程で日々の再現性が大きく揺れます。したがって、式の選別よりも条件の統一とRPEの導入が優先です。中上級者はフォームが固まり、疲労管理が主要課題になります。3〜5回でRPE8前後のセットを週1〜2回記録し、基準式で更新確認、ピーク手前で低回数の再較正、という運用が効果的です。いずれも“式は地図、現場は地形”の意識を忘れないことが、換算の活きる環境を作ります。

比較:Epleyのメリット
低〜中回数に強く、RPE運用と相性が良い。数式が簡便で現場のメモに落としやすい。

比較:Epleyのデメリット
高回数域ではやや保守的になりやすく、筋持久に強い人の推定が低めに出ることがある。

比較:Lombardiのメリット
10回前後のセットからでも計算でき、筋持久型の選手に近い値を示しやすい。

比較:Lombardiのデメリット
低回数では強気に出る場合があり、ピーキング直前の重量決定には慎重さが要る。

選択の最後は“自分の実測1RM”に対する一致度で決めます。3ヶ月に一度でよいので安全な条件で実測し、各式のズレを記録すれば、次回から補正係数を掛けてより実用的な推定が得られます。

□ 自分の基準式を1つだけ決める。
□ 3〜5回域のRPE8セットを週1本は残す。
□ 高回数からの推定は−2%の安全係数を付ける。
□ 床、バー、シューズなど条件の変更はメモ。
□ 実測は年3〜4回、疲労が抜けた週に実施。

大会前はBrzyckiで低回数の推定を取り、増量期はLombardiで中回数の推定を見ていました。式を使い分けるより、条件メモとRPEの整合が効いた実感です。

レップ法から推定する手順と誤差の扱い

もっとも手軽な入力は“重量×回数”です。しかし、回数が増えるほど誤差は増えます。一方で、毎週の実測は疲労と怪我リスクが高いので現実的ではありません。ここでは3〜8回のセットを軸に、RIRや休憩、AMRAPの代替など、誤差を小さくする運用と判断の枠組みを示します。

レップ上限からの逆算とRIR

同じ重量でも“限界まで”か“2レップ残し”かで推定は変わります。RIRの自己評価が安定しているなら、RIR2のセットからの換算は再現性が高くなります。逆にRIR0付近のギリギリセットはフォーム崩れが生じ、推定を乱します。実務では、RIR1〜2で3〜5回のセットを入力にし、週次の更新は重量微増か同重量で回数+1のどちらか一方に絞ります。

セット間休憩とバー速度の低下

休憩が短すぎると、同じRPEでもバー速度が落ち、推定が低めに出ます。セット間は3〜5分を基準に、5回以上のセットでは5分寄りに、3回以下なら3分寄りで十分です。速度低下が気になる日は、ウォームアップ末尾の体感速度を基準にし、“遅くなり始めたら終える”ルールを設けると、フォームの乱れを避けられます。

AMRAPテストのリスクと代替

AMRAPは回数入力のサンプルを一気に増やせますが、疲労とフォーム崩れのリスクが高い手段です。代替として、トップシングル@RPE7〜8→ボリュームセット×2〜3という構成が有効です。トップシングルの主観速度から当日の上限を把握し、ボリュームセットを3〜5回域に収めて換算の材料を集めます。AMRAPはメゾサイクル終盤の一度だけで十分です。

  1. ターゲット回数を先に決め、重量ではなくRPEで止めます。
  2. RIR2の範囲で終え、フォーム品質を最優先にします。
  3. セット間は最低3分、5回以上なら5分を確保します。
  4. トップシングル@RPE7〜8を先に1本入れます。
  5. その日の床やバーの滑り具合を短文でメモします。
  6. 推定値に−2%の安全係数を試し、必要に応じ上書きします。
  7. 次週は重量微増と回数+1を同時に狙わない方針にします。

ベンチマーク早見
・3回での換算は誤差±2〜3%が目安。
・5回での換算は誤差±3〜5%が目安。
・8回での換算は誤差±5〜7%が目安。
・RIR±1の誤判定は推定±2%前後に相当。
・トップシングル@RPE8の当日1RM相関は高い。

Q:5回×2セットの平均で換算してよいですか。
A:セット1の数値を採用し、セット2は疲労の指標に回すと安定します。

Q:RIRが読めません。
A:動画で粘り始めの位置と速度を見直し、前回と比較すると精度が上がります。

Q:AMRAPを毎週やるべきですか。
A:疲労が溜まりやすいので、メゾ末の確認用に年数回で十分です。

速度やRPEを用いたオートレギュレーション

速度やRPEを用いたオートレギュレーション

レップ入力に加えて、RPEバー速度を使うと当日の上限設定がさらに現実的になります。VBT(Velocity Based Training)機器があれば数値で、なくても主観速度で十分に指標化できます。ここではRPE表の読み替え、簡易的な速度評価、週内の波形設計を紹介します。

RPE表と速度基準の読み替え

デッドリフトはスクワットやベンチより立ち上がりで速度が落ちやすく、同じRPEでも体感が重く出やすい種目です。RPE8は“あと2レップ残し”の目安ですが、粘り始めの位置が膝下か膝上かで印象が変わります。トップシングル@RPE7〜8を採用し、その日の粘りを見てボリュームの%を±2.5%調整すると、換算の過信を避けられます。

VBT機器なしでの簡易速度評価

スマホ撮影で十分です。横からの角度で、床離れから膝下、膝上、ロックアウト手前の3点に注目します。床離れ〜膝下の時間が前週と比べて明らかに延びていれば、その日の上限を−2.5〜5%に設定します。速度が遅い=疲労大の直感は概ね正確で、換算値が高く出た日でも過負荷を避ける助けになります。

週内の波形と回復の目安

週2頻度なら、片方を“技術・速度寄り”、もう片方を“ボリューム寄り”に分けます。速度日ではトップシングル@RPE7、ボリューム日は@RPE8で3〜5回×2〜3セットを基本とし、同じRPEで同じフォームが出ることを優先します。回復のサインは、ウォームアップの体感とトップシングルの滑らかさに現れます。鈍い日はあらかじめ−2.5%に落とし、翌週の伸びに繋げます。

注意:RPEは“重量の言い訳”ではなく“品質の上限”です。狙いのRPEに達したらそれ以上は盛らずに終える判断が、怪我と停滞の両方を防ぎます。

工程を段階化してみましょう。

ステップ1:ウォームアップ末尾で今日の粘りと可動域を確認。
ステップ2:トップシングル@RPE7〜8を1本、動画でチェック。
ステップ3:ボリュームは@RPE8で3〜5回×2〜3セットに設定。
ステップ4:翌週は同RPEで速度の改善を目標に、重量は微増に留めます。

小さな統計でも方向性は掴めます。
・@RPE8のトップシングルが滑らかな週は、ボリュームの換算が実測に近づく。
・動画の粘り位置が膝下→膝上へ移ると、翌週の更新率が上がる。
・週内で速度日→ボリューム日の順が回復に有利。

種目差・フォーム差による補正と現場調整

同じデッドリフトでも、コンベンショナル相撲、床の材質、バー径やナール、ベルトやストラップの有無で、推定値の意味合いは変化します。ここでは代表的な差異と補正の考え方、記録の分け方、ツールの影響を具体的に扱います。

コンベンショナルと相撲の差

相撲は可動域が短く股関節の深さが抑えられるため、同じ相対強度でも反復回数が伸びやすい人がいます。一方、床離れの粘りが長くなるタイプでは、相撲の方がRPEの主観が高く出やすいこともあります。どちらが優れているではなく、自分がどちらで安定するかを優先し、種目タグを分けて換算を管理します。

ベルト・ストラップの影響

ベルトは体幹の剛性を高め、床離れの安定に寄与します。ストラップはグリップ疲労を軽減し、ボリュームセットでの再現性が上がります。両者を併用する日は推定値が高めに出やすく、素手・ノーベルトの日とは数値を分けて記録するのが無難です。大会規定がある人は、試合条件のセットを必ず残して較正に使います。

プラットフォームとバーの違い

床の硬さやラバーの沈み、バー径やしなりは体感を大きく変えます。しなるバーは床離れが軽く感じられますが、膝上での粘りが増えることもあります。こうした環境差は換算の誤差につながるため、環境タグを記録し、同条件同士で比較する習慣が重要です。

よくある失敗と回避策を挙げます。

失敗1:種目を混ぜて比較する
回避:コンベと相撲、可動域の違いは別記録で管理します。

失敗2:ツールの有無を無視する
回避:ベルト・ストラップの使用状況を毎回メモします。

失敗3:床やバーの違いを軽視する
回避:プラットフォーム名やバー種類を短記録で残します。

条件 体感への影響 反復回数の傾向 換算への扱い
相撲 可動域短く初動安定 中回数が伸びやすい 別タグで管理
ベルト有 腹圧が高まり安定 低〜中回数が安定 高めに出やすい
ストラップ有 握力の影響低下 ボリュームが安定 別記録が無難
硬い床 返りが早く感じる 低回数で恩恵 −0〜2%の補正
しなるバー 初動が軽く感じる 中盤で粘る 場所メモ必須

用語の意味を整理しておきます。

RPE:主観的運動強度。8は“あと2レップ”の目安。
RIR:残レップ数。RIR2は“あと2回できる”。
VBT:速度ベーストレ。バー速度を指標化。
トップシングル:当日の状態確認の単発。
ピーキング:大会向けの力発揮最大化期間。

実践プログラムへの落とし込みと進捗管理

換算値は、計画→実行→確認→調整のサイクルに組み込んで初めて力を持ちます。ここでは1マイクロサイクルの構築例、デロードと再評価、停滞打破の刺激変更まで、実務に落とす過程を示します。

マイクロサイクルの構築例

週2頻度の例:Day1は速度重視、Day2はボリューム重視。Day1はトップシングル@RPE7→3回×2、Day2は@RPE8で5回×2が基本です。主軸の重量は基準式の推定1RMに対して、Day1は75〜82.5%、Day2は77.5〜85%の範囲で日によって±2.5%調整します。補助種目はヒンジや上背、グリップを補う配置にし、翌週は“重量微増”か“回数+1”のいずれかに限定して進めます。

デロードと再評価のタイミング

3〜4週の積み上げで疲労が滞留したら、デロードを1週入れます。トップシングルを@RPE6〜7に、ボリュームは2セットに縮小、補助のボリュームも30〜40%落とします。明けの最初の週は、トップシングル@RPE7〜8で滑らかさが戻るかを見て、換算の基準式を一度リセットし、最新状態に合わせて再較正します。

停滞打破のための刺激変更

停滞は“疲労過多”と“刺激不足”の両極にあります。前者は休息とボリューム削減、後者は可動域やテンポの変化で解決します。デフィシット、ポーズ、テンポ(3秒下ろしなど)を2〜3週だけ入れ、主動作のボリュームは維持すると、神経的な目新しさが生まれます。換算の入力は主動作を優先し、変化種目は参考に留めると記録が読みやすくなります。

注意:刺激変更の“やり過ぎ”は換算の連続性を壊します。変化は1つずつ、小さく、期間限定で行い、変化前後で同条件のセットを残しましょう。

工程は以下の通りです。

ステップ1:基準式で当週の%レンジを決める。
ステップ2:トップシングル@RPE7〜8で当日の上限を確認。
ステップ3:ボリュームは3〜5回×2〜3、RPE8上限で停止。
ステップ4:週末に動画とログを照合し、翌週の±2.5%を決定。

数値の目安を簡単に。
・週2頻度の上昇幅:+1.5〜2%/週(3週連続まで)。
・4週目のデロードで−30〜40%のボリューム。
・デロード明けの反発:+2〜4%で更新が出やすい。

メリット
・RPE×換算の併用で当日の現実に即した重量が選べる。
・ピーキング時の過負荷や当て勘を避けられる。

デメリット
・記録や動画確認の手間が増える。
・RPE習熟までの初期は誤差がやや大きく出やすい。

□ 週2頻度なら速度日とボリューム日を分ける。
□ 3週積み上げたらデロードで整える。
□ 刺激変更は1つずつ、短期間で効果を判定。
□ ログは“条件・RPE・体感速度”の3点を必ず記入。

ケース別の具体調整とよくある質問

最後に、体型や競技歴、設備差など現場で頻出のケースに沿って、換算の扱いを細かく調整します。ここまでの原則を土台に、安全係数再現性を優先しながら、自分仕様へ最適化していきましょう。

軽量級・女性選手の中回数優位

軽量級や女性は中回数への耐性が高い傾向にあります。5〜8回セットの推定が実測に近づきやすい一方、低回数では神経的な緊張が不足し推定が控えめになる場合があります。3回以下での換算を基準にするより、5回×RIR1〜2のセットを基準に据えると、日々のトレーニングに馴染みます。

重量級・握力制限のある場合

重量級は神経系の消耗が先に来やすく、同じ%でも反復回数が伸びにくいことがあります。握力が先に尽きる人はストラップを併用し、主動作の再現性を担保します。ストラップ日の推定は高めに出る可能性があるため、試合条件と分けて記録し、誤差を意識した運用を行います。

設備が安定しないジム環境

ジムを転々とする人は、床やバーの条件がしばしば変わります。換算の連続性を保つには、“環境メモ”が最大の武器です。床の硬さ、バーの種類、ラックの高さを短文で残し、同条件のデータ同士で比較するだけで、推定のぶれは目に見えて減ります。

注意:実測1RMに依存しすぎないこと。ピーキング直前以外は、推定+RPEで十分です。安全係数−2.5%を常に意識しましょう。

工程のサンプルを挙げます。

ステップ1:週初に@RPE7のトップシングルを1本。
ステップ2:当日の滑らかさに応じてボリューム%を±2.5%調整。
ステップ3:週末に動画とログを照合し、翌週の焦点を1つに絞る。

小さな統計を積み上げましょう。
・同重量×同回数×同RPEが2週続けば、翌週は+2.5kgまたは+1回。
・RPEが毎回+0.5高いなら、休憩延長と睡眠の介入を優先。

Q:コンベか相撲かで換算式を変えるべきですか。
A:式は同じでも構いません。記録を別タグに分け、補正は安全係数で吸収します。

Q:VBT機器がありません。
A:スマホ動画で粘り位置を記録するだけで十分有益です。

Q:停滞時はどのくらい下げますか。
A:1週−2.5〜5%、ボリューム−20〜30%を目安に様子を見ます。

また、ベンチマークを手元に置くと意思決定が速くなります。
・3回=約90〜92.5%の目安。
・5回=約85〜87.5%の目安。
・8回=約77.5〜80%の目安。
個人差はありますが、ここから±2.5%の調整幅を常に持って運用してください。

まとめ

デッドリフトのマックス換算は、式そのものよりも再現性のある入力安全係数の設計で精度が決まります。3〜5回×RIR1〜2のセットを基準に、RPEと主観速度で当日の上限を調整し、環境やツールの差はタグを分けて記録します。式はEpleyやBrzyckiなどから自分に合う1つを“基準式”に据え、他は補助指標に回すとぶれが小さくなります。週単位では速度日とボリューム日を分け、3週積み上げたらデロードで整える流れが、怪我のリスクを抑えながら更新を積み上げる王道です。
最後に、推定値は“挑むための天井”ではなく“安全に届く範囲の目安”です。−2.5%の余白と記録の一貫性を味方に、今日のトレーニングを明日の更新へ繋げていきましょう。