- 式は複数を併読し誤差帯で考える
- フォームとレンジで値は大きく動く
- レップ限界の主観を記録する
- 日内変動は10%前後を見込む
- 1RM%は目的別に使い分ける
- 進捗はブロック単位で評価する
- 痛みが出たら即時に撤退する
スクワットでマックス換算を見極める|定番と新興の比較
換算式は観測データに基づく経験式です。完全な正解ではなく、「範囲で捉えるための物差し」として使います。式間の差が大きいときは、フォームや可動域、疲労の影響を疑い、平均や中央値で見ると安全です。
代表的な式の特徴を把握する
よく用いられるのはEpley、Brzycki、O’Conner、Lombardi、Wathanなどです。Epleyは低〜中レップで扱いやすく、Brzyckiは中〜高レップで比較的保守的に見積もります。指数型のWathanやLombardiは高レップ域の上振れを抑える傾向があります。
スクワットでの適用レンジ
スクワットは大筋群・長可動域・疲労蓄積の影響が大きく、5〜10RM付近の推定が安定します。1〜3RMからの外挿はフォーム依存が強く、12RM超の高レップは心肺要素で誤差が拡大します。
式の比較を表で見る
| 式 | 代表形 | 相性の良いレンジ | 傾向 |
|---|---|---|---|
| Epley | 1RM=w×(1+reps/30) | 4〜10RM | 扱いやすい直線近似 |
| Brzycki | 1RM=w×36/(37−reps) | 5〜12RM | やや保守的に推定 |
| O’Conner | 1RM=w×(1+0.025×reps) | 4〜8RM | 短レップ向け |
| Lombardi | 1RM=w×reps^0.10 | 6〜12RM | 指数近似で高レップ抑制 |
| Wathan | 1RM=100w/(48.8+53.8e^(−0.075reps)) | 6〜12RM | 全域で安定しやすい |
ミニ統計で誤差帯を意識する
同一被験者で式を跨いだ推定を比べると、5RMからの換算は±2〜4%、10RMでは±4〜7%の差が生じやすいと報告されています。現場では±5%を許容帯として扱うと、負荷設定の意思決定が安定します。
注意:式より大事な前提条件
レンジ、深さ、テンポ、ベルトやシューズなどのギア、スポッターの介入が異なると、同じレップでも意味が変わります。比較は「同条件・同自分」で行い、式は相対変化を見る道具として使いましょう。
レップ限界と疲労が換算に与える影響

同じ重さでも「どのように限界に達したか」で1RM推定は揺れます。主観的運動強度(RPE)と「残レップ(RIR)」の記録を添えると、換算の再現性が高まります。
RPE/RIRを添えて記録する
RPE9(RIR1)とRPE10(RIR0)では推定値が1〜3%動きます。フォームが崩れる前の限界で止めたかどうかを書き添えると、週を跨いだ比較が容易になります。
日内・週内変動を見込む
睡眠や栄養、ストレス、気温で出力は日々揺れます。朝と夕で挙上差が出る人もいます。週内では高強度日の翌日は出力が落ちやすく、換算は連続データで判断するのが安全です。
手順ステップでぶれを減らす
- アップは同じテンポ・同じ順番で固定する
- 狙いのRM域に近い重量でウォームアップする
- セット間休憩を一定に保つ
- 限界判定はRIR基準で止め方を統一する
- 当日の体調メモを残し補正に使う
チェックリスト
- RIRの基準をチームで共有した
- テンポと深さを動画で確認した
- 休憩時間をタイマーで管理した
- アップの段階を固定化した
- 疲労が高い日はRM域を上げた
ミニFAQ
Q. RPEは主観で曖昧? A. 動画と併用し、翌週の出力で校正すると精度が上がります。
Q. 何セット目を記録? A. 最も安定する中盤セットを基準にし、最重の失敗は別記録にします。
Q. 風邪気味のときは? A. 5〜10%軽くし、換算は参考扱いに留めます。
フォーム・可動域・種目差による換算の偏り
スクワットはフォームが多様です。ハイバー/ローバー、フロント、ボックスなどで力学が変わり、同じRMでも推定1RMに差が出ます。比較は種目内で閉じるのが原則です。
レンジと底ポジションの管理
「股関節が膝より下」で止めるか、競技基準で潰し切るかで推定値は変わります。深さの映像基準を決め、可動域が浅い日は別データとして扱いましょう。
バー位置と支点の違い
ローバーはヒップ主導で高重量に寄り、ハイバーは膝関与が増えます。1RM換算の比較は「同バー位置・同シューズ」で統一し、変更週は注釈を残します。
比較ブロック:種目差の使い分け
| 種目 | 利点 | 留意点 |
|---|---|---|
| ハイバースクワット | 体幹直立で可動域が得やすい | 大腿四頭筋の疲労で高レップ誤差増 |
| ローバースクワット | 高重量に適し停滞打破に有効 | 肩・肘の柔軟性不足でフォーム崩れ |
| フロントスクワット | フォーム指標が明確で矯正向き | 前肩の保持で高レップの維持が難しい |
用語集
- ハイバー
- 僧帽上にバーを担ぐスタイル。
- ローバー
- 肩甲棘付近にバーを担ぐスタイル。
- RIR
- 限界まで残せたレップ数の推定。
- テンポ
- 下降/ボトム/上昇の時間配分。
- ボトムポジション
- 最下点の姿勢・角度。
失敗と回避策
深さが浅くなる→可動域マーカーを設置し動画で確認。
上体が前に倒れる→シューズ・スタンスと呼吸圧の再点検。
高レップでフォーム崩壊→RM域を下げRIR2で止める。
スクワットのマックス換算を現場で使う手順

換算は「式を選ぶ」より「運用を決める」ことが肝です。ここでは混雑の少ない手順と、ベンチマークの置き方を提示します。同じ段取りが再現性を生みます。
実務フロー(7ステップ)
- 当日の体調を自己評価し参考帯を決める
- アップを固定テンポで段階的に進める
- 狙いのRM域でRIR1〜2のセットを作る
- 2つの式(例:Epley/Brzycki)で推定
- 差が大きいときはフォームを動画で確認
- 中央値±5%で当日の1RM帯を確定する
- 目的別ゾーンで本セットを組む
ベンチマーク早見
- RIR2で5RM→1RMの92〜95%帯
- RIR1で3RM→1RMの95〜97%帯
- RIR0で2RM→1RMの97〜99%帯
- 10RM完遂→1RMの75〜78%帯
- 高温・睡眠不足→帯を−2〜5%補正
事例:誤差を抑えた判定
5RM100kg(RIR1)でEpley=116.7、Brzycki=112.5。動画で深さ良好、疲労少。中央値114.6を当日の1RMとし、85%を本日のトップセットに設定。
1RM%を使った目的別の負荷設計
推定1RMは手段です。目的に応じてゾーンを選ぶと、練習は意味を持ちます。ここでは一般的な目安を提示し、週内配置と進め方の例を示します。
ゾーンの目安とねらい
- 60〜70%:技術習得と動作の反復
- 70〜80%:筋肥大のボリューム確保
- 80〜90%:最大筋力の発揮練習
- 90%超:ピークづくりと試技準備
ミニ統計:セット処方の例
80%×3〜5回×3〜5セットで最大筋力の伸長、70〜75%×6〜10回×3〜6セットで筋肥大の刺激が得られやすい傾向があります。個体差があるため、RIRと主観を添えて調整します。
注意:帯の固定はしない
帯は当日の1RM換算に追随させます。前週の帯に固執せず、+−5%の幅で柔軟に動かすと、疲労の蓄積を避けやすくなります。
よくある誤差と回避策・メンテナンス
誤差は必ず出ます。大事なのは「同じ誤差を繰り返さない」ことです。ここでは頻出の落とし穴を列挙し、対処の型を示します。
よくある誤差
- 体験版やアプリの既定テンポに引っ張られる
- ハイバーとローバーを混在させて比較する
- RIRの判定が担当者ごとに異なる
回避策の型
- テンポ・深さの基準動画を週初に撮る
- 式は2種+中央値で当日値を決める
- RIRの校正会を月1で実施する
ミニFAQ
Q. 1RM試技は必要? A. 期のどこかで一度は実施すると良いですが、疲労と安全に配慮して計画的に行います。
Q. ベルトは使うべき? A. 1RM近傍では体幹の安定に有効です。比較時は着用有無を揃えます。
Q. カット重量は? A. 可動域が浅くなったら即カットし、フォーム優先で再構築します。
まとめ
マックス換算は「正解を当てる」道具ではなく、同条件の自分を比較する物差しです。式は2種を並べ、中央値と±5%の帯で当日のゾーンを決めると運用が安定します。フォーム・レンジ・テンポを固定し、RIRと動画を添えて記録すれば、誤差は学びに変わります。目的に合わせて1RM%を動かし、週単位で振り返りを続けてください。続く設計が、安全と伸びの両方を支えます。


