合図を作り、再現性を上げ、距離と速度に応じて調整する。その三段構えで習得は安定します。
- 一周期の順序を言語化し同じリズムを刻む
- 呼吸の高さと顔の戻しで抵抗を減らす
- 手の終わりと足の始まりを重ね過ぎない
- キックの閉脚で体を細くして前へ進む
- 練習セットで測り、週ごとに微調整する
平泳ぎで手足のタイミングを整える|やさしく解説
まず全体像を掴みます。泳速は「推進の山」と「抵抗の谷」の合成です。谷を浅くして山を平らに繋ぐと、失速が減ります。ここでは一周期の順序を定義し、力を使う場面と抜く場面をはっきり分けます。設計が安定すると、個別ドリルの効果が積み重なります。
四相の並びを固定する:前伸び→かき→前送→滑走
最初に両腕を前で伸ばし、頭は水中で一直線にします。次に外側へ軽く開き、胸前でまとめて前方へ送り返します。送り返した直後が最も細い姿勢です。ここで滑走を入れます。
慌てて次の動作に行かず、短い静止で水の反応を感じると、リズムが整います。
キックは二相で理解する:畳む→閉じる
足は最初にかかとをお尻へ近づけて「畳む」。次に足裏で水を捉え「閉じる」。畳むときに膝を広げ過ぎると抵抗が増えます。
閉じる動作の終盤で脛を薄く絞る意識を持つと、閉脚後の姿勢が細くなり、滑走の質が上がります。
呼吸は低く短く:顔は水面すれすれで戻す
息を吸う高さが上がると腰が落ちます。口だけを出す感覚で素早く吸い、視線は斜め下に戻します。首で持ち上げるのではなく、胸骨の角度で上下を作るイメージが有効です。
戻しを遅らせないことが、次の前伸びを細くする鍵です。
滑走の長さは速度で変える:短水路と長水路で使い分け
滑走を長くすると省エネですが、速度が落ち過ぎると再加速に余分な力が要ります。短水路ではターン後の加速が多いため、滑走はやや短めが安定。長水路では中盤の省エネを狙い、ほんの一拍だけ伸ばします。
時計とストローク数で最適点を見つけましょう。
テンポの指標を持つ:数える位置を決める
「前で一」「胸前で二」「閉じで三」のように、自分だけのカウントを決めます。テンポが乱れたら、数え直して整列させます。
主観の速さに頼ると崩れやすいので、数と時計の二軸で確認するのが実戦的です。
注意:「手で引き切る→脚で蹴る」を重ね過ぎると、身体が開いて抵抗が増えます。手の前送が始まったら、脚は畳みを終えているのが目安です。
手順ステップ(設計の型)
- 前伸びを最細に作り、視線を斜め下へ置く
- 外にそっと開き、胸前でまとめる
- 腕を前送しながら口だけで吸う
- かかとを静かに畳み、膝は広げ過ぎない
- 足裏で押し閉じ、最細姿勢で一拍滑る
ミニ統計(練習現場の実感値)
- 呼吸の戻しを0.2秒短縮で50mの中盤が安定
- 滑走を一拍固定でストローク数が平均1~2減
- 畳みの膝幅を手の幅以内で失速感が明確に減少
腕と脚の役割分担を決める:順序と重なりの黄金比

推進は腕と脚の分業で作ります。腕は「姿勢を細くし前へ運ぶ」、脚は「止まった体を押し出す」。この役割を崩すと、力は出しているのに進まない状態になります。ここでは重ねる瞬間と離す瞬間を定義し、黄金比の重なりを作ります。
手が止まる前に脚を畳む:前送と畳みの入れ替え
胸前でまとめたら、腕は前へ送りはじめます。送りの初動で脚は畳みを開始。手が前で伸び切る頃、畳みは終わっています。
この入れ替えが遅れると上半身が開き、抵抗の山ができます。遅れたと感じたらテンポを少し上げましょう。
脚が閉じ切る前に腕を細く:閉脚と前伸びの同時化
閉脚の終盤には腕が既に細い前姿勢に戻っています。こうすると「押し出し→滑走」が一枚で繋がります。
閉じてから腕を伸ばすと谷が深くなり、再加速が必要になります。終盤の0.1~0.2秒を重ねる意識が効果的です。
呼吸は胸で上げて首で戻さない:抵抗の急増を防ぐ
首で顔を上げると背中が反り、腰が落ちます。胸を薄く前へ押し上げると、口元だけが水面に出ます。
戻しは首で素早く行い、目線はすぐ斜め下へ。呼吸の高さは「ゴーグルの下半分が水中」を目安にしましょう。
比較ブロック(重ね方の差)
重ねが浅い
- 失速しやすいが楽に感じる
- 中盤で距離が伸びにくい
重ねが深い
- 推進が途切れにくく安定する
- 慣れるまで息が忙しく感じる
ミニ用語集
- 前送
- 胸前でまとめた腕を前へ運ぶ動作。
- 畳み
- かかとをお尻へ寄せる準備の動作。
- 閉脚
- 足裏で水を押し切り脚を揃える局面。
- 滑走
- 最細姿勢で短く伸びる区間。
ミニチェックリスト
- 前送の初動で畳みが始まっているか
- 閉脚の終盤に前姿勢ができているか
- 呼吸は胸で上げて首で素早く戻すか
- 視線は斜め下で腰は沈んでいないか
平泳ぎの手足のタイミングを身体で合わせる
言葉で分かっても、水の中で再現できなければ成果に結びません。ここでは陸上と水中の橋渡しを行い、数え方と合図でタイミングを身体化します。小さな成功を積み上げ、同じ条件で同じ動きを再現できる状態を作ります。
カウント法を統一する:2拍子と3拍子の使い分け
「一で腕を前へ、二で閉脚」の2拍子はテンポが上がります。「一で前送、二で畳み、三で閉脚」の3拍子は落ち着きます。
練習では3拍子で安定化、本数後半は2拍子で維持の確認。数字で整えると主観のブレが減ります。
陸上ドリルで筋順序を覚える:チューブと椅子
軽いチューブを胸前で引き「まとめ→前送」を練習します。椅子に浅く座り、かかとを寄せる「畳み→閉脚」を確認。
10回ずつ交互に行い、呼吸は口だけで吸うつもりで首を戻します。短時間でも順序の記憶は深まります。
水中ドリルで抵抗を感じる:プル、キック、プルキック
プルのみで胸前のまとめを確認、キックのみで閉脚の揃いを確認、最後にプルキックで重ねを作ります。
一本ごとに「細い姿勢の長さ」を数えてメモ。抵抗が小さいほど数は短く安定します。
ドリル対応表(例)
| 課題 | 主動作 | 合図 | 回数 |
|---|---|---|---|
| 前送の速さ | プル | 胸前で二 | 25m×6 |
| 畳みの静かさ | キック | 前で一 | 25m×6 |
| 閉脚の揃い | キック | 閉じで三 | 25m×6 |
| 重ねの深さ | プルキック | 二三重ね | 25m×6 |
| 呼吸の低さ | プル | 口だけ | 25m×4 |
Q&AミニFAQ
Q. 息が苦しくて上がり過ぎます。A. まとめの終盤で胸を前へ薄く出し、口だけで吸います。戻しを最優先で早めると高さが下がります。
Q. 足が外へ散ります。A. 畳みを静かにし、膝幅を手幅以内に制限。閉脚の終盤は内くるぶしを寄せる意識で揃います。
Q. テンポが乱れます。A. 3拍子の数え方に戻し、滑走で一拍固定。数と時計で二重に管理します。
よくある失敗と回避策
手で引き切ってから脚を蹴る:谷が深まり再加速が必要。前送の初動で畳みを開始し、終盤を重ねます。
呼吸で体を起こす:腰が落ち失速。胸で薄く上げて首で素早く戻します。
滑走を伸ばし過ぎ:速度が消える。距離と本数に応じて一拍の長さを固定します。
キックの質を上げる:可動域と当て方の学習手順

平泳ぎの脚は独特です。股関節の外旋、足首の外返し、膝の開閉が絡みます。ここでは可動域を確保し、当て方を身につける順序を用意します。蹴りは強さよりも軌道の正確さが効きます。
膝幅と足首の外旋をリンクさせる
膝を広げ過ぎると脛が正面を向き抵抗が増えます。膝は手幅以内、足首は外へ返して足裏の面を作ります。
内ももで水を挟む意識を持つと、閉脚の終盤が揃いやすくなります。
内くるぶしを触れさせて閉脚の終点を固定
閉脚の最後に内くるぶしが軽く触れると、毎回の終点が揃います。
強く当てる必要はありません。接触は「揃いの合図」です。ここで姿勢が最細になり、滑走の安定が増します。
けのび再開の合図を作る:細い姿勢の一拍
閉脚が終わったら、一拍だけ細い姿勢で水に乗ります。
その直後に前送へ。再開の合図を決めると、焦りによる早すぎる畳みが減ります。一本ごとに「今の一拍」を言語化しましょう。
有序リスト(脚づくりの順)
- 股関節外旋のストレッチを行う
- 足首の外返しを10回繰り返す
- 膝幅を手幅以内で畳みを練習する
- 内くるぶし接触の終点を固定する
- 一拍の滑走から前送へ移行する
- プルキックで重なりを確認する
- セット練習でテンポを刻む
事例:膝が広がり進まなかった選手が、膝幅を手幅以内に制限し内くるぶしの接触を合図にしたところ、25mのストローク数が平均で2減り、後半の失速も軽減した。
ベンチマーク早見(脚)
- 畳みは水音を立てない静かさが基準
- 閉脚の終盤で内くるぶしが触れる
- 閉脚後の一拍は毎回同じ長さ
- 膝幅は手幅以内で一定を保つ
- 足裏の面を外返しで確保する
上半身の抵抗を減らす:前送と前姿勢の作り方
上半身の抵抗は秒単位で効きます。前送の軌道、肘の高さ、入水の幅、目線の置き方を揃えると、同じ力でも楽になります。ここでは形を分解し、細い前姿勢を繰り返し作る手順を示します。
肘先行で前送を描く:肩で水を割らない
前送は肘が先、手は後から滑ります。肩から持ち上げると水を押し上げ、抵抗が増えます。
肘で水面を切るように小さく運ぶと、胸の前が短くまとまり、次の滑走が楽になります。
入水幅の目安を固定:肩幅のやや内側
広すぎると胸が開き、狭すぎると頭が沈みます。
肩幅のやや内側に人差し指が入る位置へ。左右対称で入ると、安定した前姿勢が毎回再現できます。
目線と体幹で一直線を作る:腰を落とさない
視線は斜め下、みぞおちから腿までを一本に保ちます。
腹圧で体幹を締め、呼吸の上げ下げでも腰を落とさない意識を保つと、抵抗の谷が浅くなります。
無序リスト(形の要所)
- 肘先行で肩を上げない前送を描く
- 入水は肩幅のやや内側に固定する
- 視線は常に斜め下へ置き続ける
- 腹圧で腰の落ちを防ぎ一直線を維持
- 前姿勢で一拍の滑走を欠かさない
注意:前送を速くしようとして肩で水を叩くと、頭が上下しやすくなります。肘の高さと手の軌道を小さく保つほど、静かな滑走に繋がります。
ミニ用語集
- 前姿勢
- 腕が前で伸びた最も細い姿勢。
- 肘先行
- 肘を前に出し手が後から続く運び。
- 入水幅
- 両手が水面に入る左右の距離。
- 腹圧
- お腹を軽く固めて体幹を安定させる力。
練習計画と測定:セットでタイミングを固める
身についた動きは数字で裏付けるとぶれません。ここでは25m主体の配列、テンポの管理、試合前の整え方を示します。測る→直す→再測の循環を作り、週ごとの変化を可視化します。
25mの配列で一周期を磨く:分解→統合
前半は分解、後半は統合で進めます。プル×6、キック×6、プルキック×6を基本に、最後はスイム×6。
一本ごとに「滑走の一拍」と「呼吸の高さ」を自己評価します。評価は10段階で記録しましょう。
テンポは時計で決める:ストローク数の上下で補正
テンポは区間サイクルで固定します。例えば25mを30秒サイクルで8本。中盤でストローク数が増えたら、滑走を短くして再現性を保ちます。
終盤の崩れはテンポより姿勢で補正するのが効きます。
試合前の整え方:前半の合図を一本化
本番は緊張で数が飛びます。前半50mの合図を一つに絞り、「胸前で二」「閉じで三」など自分語を決めます。
直前のアップではプル×2、キック×2、スイム×2で順序を再確認します。
ミニ統計(測定の効用)
- 25mの自己評価を付けると再現率が上昇
- サイクル固定で中盤の失速が減少
- 合図の一本化で前半の動揺が抑制
比較ブロック(セット例)
技術寄り日
- プル×6、キック×6、プルキック×6
- スイム×6は3拍子で整える
耐久寄り日
- 25m×20を30秒サイクル
- 後半は2拍子で維持を確認
事例:合図を「閉じで三」に統一しただけで、選手の中盤のバラつきが減少。ストローク数の上下が1以内に収まり、50m通過の再現性が向上した。
まとめ
平泳ぎの上達は、手と足と呼吸の順序を決め、一周期の合図を身体化することから始まります。前送と畳みを重ね、閉脚の終盤で前姿勢を作り、低く短い呼吸で滑走を一拍に固定します。脚は膝幅と外返しを整え、内くるぶしの接触を揃いの合図にします。上半身は肘先行で前を細く保ち、視線は斜め下へ。練習は分解から統合へ配列し、サイクルとストローク数で測定します。数字と合図で同じ泳ぎを再現できるほど、距離も速度も安定します。今日の一本に合図を入れ、明日の一本で同じ合図を確かめましょう。


