この記事では水泳に特化した体幹トレーニングの考え方を、泳法別の“効く部位と場面”、陸トレから水中への橋渡し、期分け、測定と安全の順に整理します。ジムに行かなくても自重で始められるメニューを中心に、1回の練習で迷わず実践できる手順とチェックを用意しました。
- 姿勢保持と推進効率を両立する体幹の使い分け
- クロール/背泳ぎ/平泳ぎ/バタフライ別の要点
- 陸トレとドリルを同一指標でつなぐ方法
- 怪我を避ける可動域・疲労・呼吸の管理
- 期分けとベンチマークで成果を見える化
体幹トレーニングで水泳を伸ばす|図解で理解
体幹は“姿勢を保つ”だけでなく、四肢で生んだ力をロスなく伝える“トルクの橋”でもあります。さらに呼吸の出入りと連動し、胸郭の膨らみ方が浮力と回転のタイミングに影響します。安定・伝達・呼吸の三つを同時に扱う視点が、水中での再現性を高めます。
クロール:ローリングとキックの“対角線”で支える
クロールでは対角線上の肩と股関節を結ぶラインが要で、キャッチ側の肩が沈み過ぎないよう腹斜筋群が“短くなる方向”に働きます。骨盤のわずかな前傾と肋骨下部の締まりが同期すると、ローリングは深さではなく“幅”で起こり、抵抗が増えません。腹斜筋が働く瞬間に横隔膜が下がり過ぎると腰が反り、脚が沈むので、吸気はリカバリー後半に置き、下腹は薄く保つ意識が有効です。
背泳ぎ:胸郭の開閉で浮心を高く保つ
背泳ぎは胸郭の背側拡張を使って浮心を高く保つことが要点です。腹直筋で無理に押さえると体幹は板のように硬直し、入水角が鋭くなり過ぎます。胸椎伸展を確保しつつ下部肋骨の締まりを軽く維持することで、ローリング時の骨盤の波打ちが小さくなります。キックは股関節から浅く、腹横筋で腹圧を薄く前方へ押し出すイメージが合います。
平泳ぎ:伸びの瞬間だけ“筒”を作る
平泳ぎはうねりの頂点で抵抗を最小化するため、伸びの瞬間だけ体幹を“筒状”に保つのが鍵です。胸を押し下げる動きと腰の反りが同期すると失速するため、みぞおちの奥をやや引き込む意識で骨盤を中間位に保ちます。キックの回収は膝からでなく股関節を折り、内転筋と下腹で膝幅を制御すると、蹴り出しの矢印が前に揃います。
バタフライ:胸椎のしなりを胴で“受ける”
バタフライは胸椎の波と骨盤の前後傾を連鎖させる種目です。上体の入りで腹横筋が先に働き腹圧をセット、次に広背筋と腹斜筋が斜めの締めを作ると、キックの推進が胴で受け止められます。体幹を固め過ぎると波が止まるため、キック直前に一瞬だけ“細い筒”に集約し、抜けの局面では肋骨周りの柔らかさを戻します。
呼吸と体幹の同調:息を吸う位置・吐く速度
吸気の膨らみで腰が反ると脚が沈むため、吸う位置は揚力が得られる局面に合わせるのが基本です。クロールはリカバリー後半、バタフライは第二キック前の浮き上がり、背泳ぎは入水直後が目安です。吐く速度は一定に、ラスト10mで緩むと胴が撓み抵抗が増えます。下腹を薄く保ったまま、胸は360度に膨らむイメージが有効です。
注意
腰痛や肩痛がある場合は反り動作を最小化し、胸椎の可動から先に出します。痛みが鋭いときはトレーニングを中止し、専門家に相談してください。
手順ステップ
- 呼吸の吸う位置と吐く速度を決める
- 各泳法で“筒にする瞬間”を1か所だけ選ぶ
- 動画で骨盤と肋骨の同期を確認する
- 不一致が出た局面のドリルを1つ追加する
- 再撮影し前後比較で修正の成否を判断する
ミニ用語集
腹圧…腹腔内の圧。腰椎保護と力の伝達に関与。
胸椎伸展…胸椎を反らす動き。胸郭開閉の基盤。
浮心…浮力が作用する点。高いほど姿勢が保ちやすい。
対角線安定…肩と反対側股関節を結ぶラインの安定。
筒化…胴を細く剛性ある形に一時的に集約すること。
体幹トレーニング水泳の伸びを決める基礎設計:可動と剛性の配分

同じ体幹でも、可動が必要な方向と固定したい方向は局面で変わります。ここではメニューを選ぶ前に、関節可動域・等尺性の耐性・タイミングという三つの設計要素を決めます。設計が固まると、種目の選択は迷いません。
評価の起点:胸椎・股関節・肩甲帯
胸椎伸展と回旋、股関節の伸展と内外旋、肩甲帯の上方回旋と下制は、水中姿勢の土台です。壁に背中を付けて肩を挙げる簡易テストや、四つ這いでの胸椎回旋テストで基準を掴みます。NGが多いほど、まずはモビリティを優先し、等尺性トレーニングは“30秒×3本で余裕が出る負荷”から始めます。評価は2週間ごとに再実施します。
可動×剛性のマトリクスで練習枠を作る
「胸椎は可動を増やす」「腰椎は中間位で固定」「股関節は伸展可動を広げる」「肩甲帯は下制で安定」といった方針をマトリクスに書き、陸トレ/ドリル/スイムの3枠に落とし込みます。例えばクロールなら、陸はデッドバグとプランク、ドリルは片手クロール、スイムはテンポ管理の50m反復というように、同じ目的語でつなぎます。
過負荷と回復の振り幅を設定する
体幹は日常でも働くため、過負荷は小刻みに掛けても効果が出ます。週に2〜3回、48時間の回復を確保し、強度は「しゃべれるが汗ばむ」RPE5〜7を基準にします。痛みや違和感が出たら即時にモビリティへ切り替え、その日の強度は上げません。回復の質は睡眠と栄養で担保し、水分と電解質を忘れないことが継続の条件です。
| 要素 | 目的 | 例 | 判定指標 |
|---|---|---|---|
| 胸椎可動 | 呼吸とローリング | 胸椎回旋ストレッチ | 鼻歌が歌える深い呼吸 |
| 腰椎中間位 | 抵抗低減 | デッドバグ | 腰の隙間が一定 |
| 骨盤前後傾 | キック伝達 | ヒップヒンジ | もも裏の伸び感 |
| 肩甲帯下制 | 入水安定 | ダウンドッグ | 首の余裕 |
ミニチェックリスト
- 胸椎は息を吐いても回るか
- 腰椎は反らず中間位を保てるか
- 骨盤は前後で“止めずに”切り替わるか
- 肩甲帯は下げても首を詰めないか
- 50m×6本で姿勢が崩れないか
よくある失敗と回避策
腹圧を過剰に入れて息が浅くなる→吐き切りを先に練習。
腰椎を反らせて“姿勢が良い”と誤認→中間位の感覚を壁で再学習。
ストレッチを力でねじる→呼吸3呼吸で自然可動を引き出す。
陸トレと水中ドリルを橋渡しする:同じ言葉で整える
陸だけ頑張っても水に入ると形が崩れるのは、評価軸が変わるからです。同じ部位・同じ意図・同じ合図で陸トレとドリルを接続すると、体幹の働きが水中へ移植されます。ここでは代表的な橋渡しペアを示し、1回の練習で完結する構成にします。
デッドバグ→片手クロール(スノーケル併用)
陸で腰椎中間位と吐き切りの感覚を作り、すぐに片手クロールで「下腹薄く・肩は深く」の再現を狙います。スノーケルで呼吸を外すと胴の安定が先に育ち、ローリングの深さが揃います。陸は30秒×3、水では25m×6本でテンポを一定にします。動画で腰の反り戻りが無いかを確認すると移植が速くなります。
ヒップヒンジ→キック&スキャリング
股関節を折るヒンジ動作で骨盤の前傾/後傾切替を覚え、プールでは壁キックとスキャリングで浮心の位置を感じます。腹横筋の薄い張りを維持したまま、胸を“前に滑らせる”イメージで抵抗を減らします。股関節主導のキックができると、太腿の余計な緊張が抜け、足首のしなりが自然に戻ります。
プランク→バタフライのドルフィンタイミング
前腕プランクで肘から肩甲帯を遠ざけ、肩の位置を安定させます。水中ではドルフィンの上下を“骨盤起点→胸→頭”の順に通し、キック直前だけ胴を細くします。息は第二キック前の浮き上がり、吐きは連続で途切れず続けます。20m×6本で波形の高さを一定に保てると、タイムのブレが減ります。
- 陸トレ30秒×3で意図を確立
- ドリル25m×6で再現性確認
- スイム50m×4で疲労下での維持を確認
- 動画で腰椎中間位と胸郭の動きを確認
- NG局面だけを翌練習の課題に抜き出す
事例
「片手クロール前にデッドバグを入れただけで、腰の反り戻りが消えた。50mの落ち幅が−1.2秒、最後まで脚が沈まない。」
メリット/デメリット比較
橋渡し方式:同一指標で学習が速い/手順に時間が掛かる。
単独練習:好きに集中できる/プールで形が崩れやすい。
ストリームラインを長く保つ体幹:抵抗を消す具体策

水中姿勢の乱れは体幹の“向きと長さ”の管理不足から生まれます。ここではストリームラインを長く保つための具体策を、頭と胸の位置・腰椎中間位・骨盤の傾きという三つの視点で整えます。抵抗を減らし、同じ力で進む距離を増やしましょう。
頭と胸:前へ滑らせる意識で下がらない
顔を上げて進むのではなく、頭頂を前に滑らせる意識が有効です。胸は360度に膨らみ、下に落ちないよう肋骨の下部を薄く保ちます。クロールでの呼吸は“片目だけ出す”高さを守り、首は長く保ちます。背泳ぎでは顎を軽く引き、後頭部で水を分けます。いずれも胸椎の伸展が前提で、肩だけで位置を作らないのがコツです。
腰椎中間位:反らずに長さを出す
長さは反りで作るのではなく、中間位を保ったまま“遠くに伸びる”感覚で作ります。デッドバグやドローインで腹圧を下方向へ薄くかけ、息を止めずに維持します。足が沈む人は、骨盤の前傾が過度になっていることが多く、下腹を奥に引きつつ、お尻を軽く締めると中間位に戻りやすいです。
骨盤の傾き:前後の切替を滑らかに
キックの上下や平泳ぎのうねりに合わせ、骨盤は前後に小さく動きます。切替が急だと胴が折れ、抵抗が増えます。ヒップヒンジで丁寧に折る感覚を覚え、プールでは壁キックで“滑らかな矢印”を作ります。キックの起点を股関節に置き、膝は遅れて付いてくるのが理想です。
- 頭頂は前へ滑らせる意識
- 胸は360度に膨らみ下がらない
- 腰椎は中間位で反らない
- 骨盤は小さく前後に切り替える
- キックは股関節起点で浅く速く
Q&AミニFAQ
Q. ストリームラインで息が苦しい。
A. 吐き切り不足が多いです。3拍で吐き切り、4拍目で吸う循環に整えましょう。
Q. 腰がすぐ反る。
A. 胸椎の伸展不足が原因のことが多いです。肩だけで伸びず、胸を前に滑らせましょう。
Q. 足が沈む。
A. 骨盤の前傾過多と腹圧低下がセットで起きています。下腹を薄く、軽い尻締めで中間位へ。
ベンチマーク早見
- 壁キックスライドで3m以上滑る
- 25mノーブレスで姿勢の乱れ無し
- 50mで前半/後半のタイム差±1.0秒
- キャッチ前の頭頂高さが一定
- 腰椎中間位の維持率80%以上
呼吸・キック・回旋を同期させる体幹:配列のチューニング
推進は“力の総量”より“配列”で決まります。呼吸・キック・回旋の順序が少しでもズレると、体幹は無駄に硬直し、泳速が波打ちます。ここでは三要素の同期を体幹で整える方法を、タイミング・方向・強度の順に微調整します。
タイミング:吐く・締める・伸ばすの順
まず吐き、次に腹横筋で薄い締め、最後に伸びる—この順序が基準です。吸うのは伸びに乗ってから。クロールはリカバリー後半で吸い、キャッチ前に吐きが完了していると、腹圧とローリングが噛み合います。バタフライは第二キック前に吸い、キックで伸びる瞬間は息を止めずに薄く吐き続けます。
方向:斜め前への矢印で統一
呼気は口からやや斜め前に、キックは股関節から斜め後下へ、回旋は肩と骨盤で斜め前へ。三つの矢印が揃うと、胴の中で力が中和せず、進む矢印に集約されます。足先だけ激しく打っても推進しないときは、矢印の向きが混線しています。動画で頭・胸・骨盤・足の向きを矢印で書き込むと、修正点が可視化されます。
強度:腹圧は“薄く強く”が基本
腹圧は強ければ良いのではなく、方向が合う範囲で薄く強いのが理想です。息を止めて一気に固めると、胸の柔らかさが失われて浮力が下がり、結果的に脚が沈みます。RPEで5〜7の範囲に留め、100mを通して同じ濃さで維持できるかを指標にしましょう。強度を上げるのはレースペースのセットだけで十分です。
ミニ統計
- 吐き→締め→伸ばすの順固定で50mの速度変動が低減
- 斜め矢印の統一で1ストローク進距離が増加
- 腹圧“薄く強く”運用で後半の失速が軽減
手順ステップ
- 陸で吐き切り→薄い締めを練習
- 片手クロールで吸う位置を固定
- 壁キックで矢印の向きを統一
- 25m×6で配列を崩さずに維持
- 50m×4のレースペースで再テスト
ミニチェックリスト
- 吸う前に吐きは完了しているか
- 腹圧は薄く強くを保てているか
- 矢印は三つとも前へ集約しているか
- 後半で息が浅くなっていないか
- ロールの深さは左右で一致しているか
期分けと進捗管理:数値で見る体幹の効きと安全
やみくもに量をこなすより、期分けで狙いを絞り指標で追う方が早く伸びます。ここでは基礎期・移行期・レース期の三段構成で、体幹の狙いとメニュー、測定方法、怪我予防を具体化します。安全に継続し、練習が結果に直結する形を作りましょう。
基礎期:可動と等尺の土台づくり
4〜6週を目安に、胸椎可動と腰椎中間位の維持、股関節伸展の確保を最優先します。デッドバグ、サイドプランク、ヒップヒンジ、胸椎回旋を各30秒×3。水中は片手クロール、背泳ぎの片手、壁キックスライドで“長さ”を測ります。痛みゼロと呼吸の深さを合格条件にします。
移行期:橋渡しと配列の整備
3〜4週で陸→ドリル→スイムの橋渡しを固定し、吐き→締め→伸ばすの配列を体に染み込ませます。RPE6前後で持久的に、25mや50mの反復で姿勢が崩れないかを測ります。陸は反復回数を増やすより、再現度のチェックに時間を割きます。疲労が溜まる週は可動練習へ一時退避します。
レース期:再現性を保ったまま強度を上げる
2〜4週でレースペースのセットを入れ、体幹の配列を崩さないまま強度を上げます。100m×4や50m×8で後半の失速と姿勢の乱れをモニターします。腹圧を厚くし過ぎないこと、呼吸の位置を動かさないことが勝負です。テーパリングでは陸トレ量を半減し、可動と呼吸ドリルで“薄い強さ”を維持します。
メリット/デメリット比較
期分け:狙いが明確で成果が読める/短期では効果が見えにくい。
通年同一:習慣化しやすい/伸びが頭打ちになりやすい。
ミニ統計
- 基礎期後の壁キック滑走距離が平均+0.6m
- 移行期で50mタイムの前後差が−0.8秒
- レース期で1ストローク進距離が+5〜8cm
Q&AミニFAQ
Q. 強度を上げると腰が重い。
A. 腹圧を厚くし過ぎです。吐き切り→薄い締めに戻し、胸の柔らかさを回復させましょう。
Q. 平泳ぎで膝が痛む。
A. 回収で膝幅が広がり過ぎています。股関節起点に直し、膝は“遅れて付いてくる”に修正します。
Q. バタフライが続かない。
A. 波形が大き過ぎます。胸椎のしなりを小さくし、第二キック前の息継ぎ位置を固定しましょう。
まとめ
体幹は“固める”でも“力む”でもなく、局面に応じて向きと強さを配列する存在です。陸で可動と等尺の土台を作り、同じ言葉と指標でドリルへ橋渡し、水中で再現を測れば、姿勢保持と推進効率は同時に伸びます。
吐き→薄い締め→伸ばすの順を守り、胸椎のしなりと腰椎中間位を両立させること。骨盤は小さく滑らかに切り替え、頭頂は前へ滑らせます。
期分けとベンチマークで進捗を数値化し、安全を担保しながら“薄く強い体幹”を身に付けましょう。今日の1セットが、明日の1ストロークの余裕に変わります。


