泳法は問わず、スプリントから中距離まで応用できる汎用フレームで説明します。
| 症状 | 想定原因 | すぐやること |
|---|---|---|
| 前半だけ速い | 配分と呼吸乱れ | 25m分割と呼吸回数の固定 |
| 終盤で失速 | 姿勢抵抗の増加 | キック数固定とストローク長点検 |
| ラップに揺れ | 休息管理不足 | RPEと休息秒の記録 |
| 肩が重い | キャッチ過多 | 入水角と肘高の再学習 |
| 息苦しい | 呼気不足 | 水中呼気8割と吸気短縮 |
| 脚が攣る | 可動と栄養 | 足関節動員と電解質補給 |
水泳でタイムの伸び悩みを打開する|短時間で把握
停滞の多くは「誤差が原因に見えていない」ことに尽きます。秒単位の改善を狙う段階で、計測や記録が曖昧なら、努力は数字に反映されません。ここでは、速度・ストローク・抵抗・配分・回復の5要素を切り分け、どこから触るかを決めます。技術論はあとでも取り戻せますが、測り方を誤ると全工程がズレ続けます。
速度の内訳を知る:ピークと持久の差を見つける
同じ平均タイムでも、ピーク速度の高さと持続の仕方は人それぞれです。25mでの飛び込みなし全力、50mでのビルド、100mの均一泳で分割を取り、前半型か後半型かを分類します。ピークだけ高く落差が大きければ配分調整、ピークが低ければ出力強化を優先。測定は週1回、同じ時間帯とアップで誤差を減らします。
ストローク長と回転数の関係を可視化する
1ストロークで進む距離(距離/ストローク数)と回転数(SPM)の組み合わせで速度は決まります。短距離は高SPM寄り、中距離は長めのストローク寄りが多いですが、個体差が大きい領域です。25mのストローク数を固定してタイムを測る、逆にタイム固定でストローク数を減らす、双方の練習を混ぜると自分の最適帯が見えます。
抵抗の出どころ:姿勢・波・摩擦の三分解
抵抗は水中姿勢の崩れ、波の作りすぎ、接水部分の摩擦で増えます。腹圧がほどけると骨盤が前傾し、脚が沈んで抵抗が跳ね上がります。呼吸時に頭部が大きく回れば波が立ち、推進が削られます。キャップ・ゴーグル・スーツのフィットも摩擦に効くので、レース週は装備を一定化して誤差を抑えます。
練習強度の偏りを見直す:ゾーン配分の最適化
楽な持久ばかり、逆に高強度ばかりでは伸びにくいです。週の中で有酸素、LT付近、無酸素パワー、スプリント技術のバランスを組み直し、ハード日の前後に技術と回復を置きます。強度配分は「頑張った感」ではなく、ラップとRPEで整えます。
回復と生活の整合を取る:眠気と体温で読む
同じメニューでも、睡眠が浅いと乳酸クリアが遅れます。入眠前の体温低下と朝の覚醒感を指標に、練習枠を微調整します。休日にロングを詰め込んで平日に疲れを持ち越すパターンは、秒単位の改善を阻害します。
STEP1: 25/50/100の分割を同条件で取得する。
STEP2: ストローク数とタイムを両方向で固定して試す。
STEP3: 抵抗3要素を1つずつ撮影で点検する。
STEP4: 強度ゾーンを週配分に落とし込む。
STEP5: 眠気/体温/主観疲労を1行で記録する。
Q: 分割計測は毎回必要ですか。
A: 週1回で十分です。条件を固定し、比較可能性を優先します。
Q: ストローク数を減らすと遅くなります。
A: 一時的な低下は正常です。抵抗が減ると後半の落ち込みが緩和されます。
Q: 高強度後に疲れが残ります。
A: 翌日は技術とドリル中心にし、ラップより映像を優先してください。
用語 SPM: 1分間のストローク回数。
SL: 1ストローク当たりの距離。
RPE: 自覚的運動強度。
LT: 乳酸閾値の近傍強度。
ドリル: 技術要素に特化した反復。
測定の精度を上げる仕組みと週次レビューのやり方

数字が粗いままでは設計も粗くなります。分割・ストローク・主観強度の三点を同じ紙面に置き、週次で短時間レビューするだけで、練習の方向は定まります。道具はシンプルで構いませんが、条件の固定だけは厳守します。
25/50/100mの分割法:時間帯とアップを固定
週に一度、アップ内容と時間帯を固定し、25m×4(均一)、50m×2(陰陽配分)、100m×1(均一)を記録します。ラップはストップウォッチと壁時計の併用で誤差を減らし、呼吸回数も横にメモします。泳法は主対象を中心に、サブ泳法は2週に1回で十分です。
ストローク数とテンポの同時記録
25mでのストローク数を数え、テンポタイマーがあればSPMも取ります。数え間違いが起きるときは、区間の真ん中だけに限定して2回測定し、平均化します。ストローク長(SL)はタイムとセットで読み、変化の方向に着目します。
RPE・休息・水温の一行メモ
ラップの横にRPE、休息秒、水温を一行で記録します。これだけで「頑張ったのに遅い」日の説明がつきやすくなり、練習の振り返りが具体になります。レビューは週末に5分で十分です。
| 項目 | 方法 | 固定条件 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 分割 | 25/50/100 | 時間帯・アップ | 18.0/38.2/1:22.5 |
| ストローク | 数/分 | 区間中央測定 | 18回/36SPM |
| RPE | 6〜10 | セット終了直後 | 7.5 |
| 休息 | 秒 | 壁到達瞬間 | 20s一定 |
| 水温 | ℃ | プール掲示板 | 28℃ |
ミニ統計
分割とストロークを同時記録した週は、翌週の均一化が進む傾向があります。休息秒を固定した群では、RPEのブレが小さくなる傾向が見られます。水温の記録は季節変動の影響を説明する助けになり、レビューの精度を上げます。
同じ条件で測って同じ紙面に並べる—これだけで「何が変わったか」を短時間で判断できます。測り方は練習の一部です。
フォームの優先課題を特定し、抵抗の少ない動線を作る
技術は多岐に渡りますが、停滞を破る優先順位は明確です。姿勢保持・呼吸角度・キャッチ初動の三点を整えると、ストローク長が伸び、同じ回転数でも速度が上がります。泳法別の微差はあっても、原理は共通です。
流線形の維持:体幹の伸長と骨盤の角度
腹圧が抜けると骨盤前傾→脚沈下→抵抗増の連鎖が起こります。呼吸以外は胸郭の回旋で前進し、腰を反らせずに「長い体」を保つこと。背中を伸ばそうとする意識より、みぞおちを前へ送る意識の方が再現性が高いです。キックは膝下を鞭のように振らず、股関節主導の小さな振幅で姿勢の維持に使います。
呼吸の角度:頭部の持ち上げをミリ単位で抑える
呼吸で頭を大きく上げると即座に足が落ちます。水中での呼気を8割終え、吸気は回旋の頂点で短く。片目は水内に残し、口角だけ水面へ出す角度を練習します。吸気の瞬間にキックを一枚強く入れると、姿勢の落ち込みを抑えられます。
キャッチ初動:肘を高く、手はわずかに外へ
水を掴む初動で肘が落ちると、押す動作しか残りません。前腕面で水を捉える準備として、手先はわずかに外へ向け、肘を高く保ちます。手で引くのではなく、体幹の前進で水を「固定」し、体を前へ運ぶ感覚を作ると力が抜けます。
メリット 姿勢と呼吸角度が整うと抵抗が減り、終盤の失速が小さくなります。キャッチ初動の改善は、同じ努力感での速度向上に直結します。
デメリット 習得初期はタイムが一時的に悪化します。映像確認やストローク数の記録がないと、不安で元に戻しがちです。
よくある失敗と回避策1 呼吸で顔を上げすぎる。対策 片目水中、吸気は短く、回旋頂点で行う。
よくある失敗と回避策2 キャッチで手先から引く。対策 前腕面で捉え、体幹の前進で体を運ぶ。
よくある失敗と回避策3 キックの振幅が大きい。対策 股関節主導の小振幅で姿勢維持に限定。
呼吸角度を直すだけで25mのストローク数が2回減り、50mの後半に残る力感が変わった。全力の練習量を減らしても、結果的に自己ベストに近づいた。
週の練習設計を組み直し、強度と技術の順序で削る

練習は足し算より順序です。ハードの前後に技術・回復を置き、週の中で目的がぶつからないように配置します。ここでは4週間のメゾサイクルを例に、泳法や距離に応じた変形の仕方も示します。
4週間メゾ:構築→刺激→統合→軽減
1週目は技術と持久の土台、2週目は閾値と短い高強度の刺激、3週目は技術とスプリントの統合、4週目はボリュームを落として質を合わせます。各週の最後に分割計測を入れ、変化の方向を確認します。週2回のハードを超えない範囲で組み、睡眠の確保を前提にします。
セッション例:目的別テンプレート
技術日はキックとドリルを中心に、短い加速でフォームの再現性を高めます。持久日は一定ペースで均一なストローク、閾値日はレスト短めで後半の集中を養います。スプリント日は全力本数を少なく、間の休息を十分に取ることで質を担保します。
スプリント×技術の組み合わせ
高強度の前後に技術要素を挟むと、再現性が上がります。例えば全力25mの直後にテンポ落としの技術25mを入れると、良い形を身体に残せます。疲労を翌日に持ち越さないため、ハードの翌日はドリルと可動のコンボにします。
- 月:技術+短い加速(25m×8)で再現性を作る
- 火:有酸素持久(200m×6)で均一を鍛える
- 木:LT付近(100m×8/レスト短)で粘りを養う
- 土:スプリント(25m全力×8/レスト長)でピークを上げる
- 各日:アップ/ダウンを固定し、RPEも記録
- 週末:分割と映像で5分レビュー
- 4週目:量を7割に落とし質の維持に集中
ベンチマーク早見
25m全力の再現誤差±0.2秒以内。
ストローク数の日内変動±1回以内。
LTセットで後半落差が1秒以内。
週のRPE平均が7.5を超えない。
分割の誤差説明がメモ1行で可能。
STEP1: ハードは週2回まで。前後に技術と回復を置く。
STEP2: 各セットの目的を紙面に1行で書く。
STEP3: レスト・RPE・呼吸回数を統一して比較。
STEP4: 4週目は量を落とし、レース条件に寄せる。
陸トレと回復設計でフォームの再現性を守る
泳ぐ時間が同じでも、陸の準備と回復で結果は変わります。肩甲帯の可動・体幹圧・睡眠栄養を整えると、毎回のフォーム再現性が上がり、練習効率が跳ね上がります。ここでは短時間で効く構成を示します。
肩周りのモビリティ:胸郭と肩甲骨の連動
胸椎伸展が乏しいと、キャッチで肘が落ちやすくなります。フォームローラーで胸椎を軽く開き、壁スライドで肩甲骨の上方回旋を誘導。バンドプルアパートで背側の活性を入れてからプールに入ると、キャッチの位置が安定します。やり過ぎは力感を削ぐので3〜5分で十分です。
体幹圧の作り方:呼吸と骨盤の一致
呼吸の準備は腹圧作りから。横隔膜に息を受け、腹側・側面・背側へ圧を配り、骨盤を中間位で固定します。ホローボディ保持を10〜20秒×2、プランクを30秒×2ほど。水中での長い姿勢を支える「土台」を先に用意します。
睡眠と栄養:練習の質を左右する土台
入眠1時間前までに入浴を済ませ、室温と光を整えます。練習前後の炭水化物と電解質、たんぱく質の摂取を習慣化し、レース週は新しい食品を試さないこと。胃腸の安定はラップの安定と直結します。
- 肩甲帯は「胸椎→肩甲骨→上腕」の順で動かす
- 腹圧は息を止めず、圧の配分で支える
- ウォームアップは3〜5分で切り上げる
- 新しいギアや食品はレース週に導入しない
- 寝る時刻を±30分の範囲に保つ
- 朝の覚醒感と体温で練習枠を微調整する
- 肩や腰に痛みが出たら翌日は技術日に寄せる
チェック 肩がすくんでいないか。呼吸で肋骨が前へ飛び出ないか。骨盤は中間位か。入眠は予定の±30分に収まっているか。練習直後の補給が30分以内にできているか。
痛みが鋭い、痺れがある、夜間痛が続く—これらは練習の題材ではなく評価の対象です。自己判断での強行を避け、専門家の助言を優先してください。
水泳 タイム 伸び悩みを破るレース設計とメンタルの整え方
最後に、練習で磨いた要素をレースで再現する工程です。配分・ターン/スタート・メンタルを具体化し、計画の外乱に揺れない準備を整えます。練習の延長として設計すれば、ピークの運任せから卒業できます。
ペース戦略:陰陽配分と均一の使い分け
50m以下は加速と維持、100〜200は陰陽配分を薄く、400以上は均一寄りで後半へわずかに上げる設計が王道です。練習で作った再現可能な速度帯を並べ、呼吸回数とキック枚数も固定。最後の10mは腕を速くするより、頭の角度とキックの密度を優先します。
ターンとスタート:無料の秒速を拾う
スタートは入水角と浮上深度、ドルフィンの枚数で決まります。ターンは壁への最後の一掻きと膝の畳みで差がつきます。本数を増やすより、1本ごとに角度と枚数を口に出す「セルフトーク」で揺れを減らします。ビデオで5本だけ撮る習慣が効果的です。
メンタルとルーティン:身体を信号で動かす
緊張を減らすのではなく、合図を減らすのがコツです。レース前は「呼気を長く→吸気短く→頭の角度一定」の3点だけを繰り返し、余計な指示を排除。招集所では目線と歩幅を一定にし、スタート台では足位置を毎回同じ距離に置く。記録は試合後の30分以内に「配分・呼吸・ターン」の3項目だけ振り返ります。
- 配分は25mごとに台本化し、呼吸とキックも固定
- ターン/スタートは角度と枚数を声に出す
- セルフトークは3語以内に絞り、繰り返す
- 外乱が起きたら次の合図だけに集中
- 試合後30分で3項目のみ短評を残す
- 翌週の練習に1点だけ反映させる
- レース週は新要素の投入を避ける
Q: レースで前半が速すぎます。
A: 呼吸回数とキック枚数を先に固定し、腕の回転はそれに従わせます。配分の台本を25mごとに書き直します。
Q: ターンで毎回距離がずれます。
A: 最後の一掻きの位置を壁の目印で決め、膝の畳みを素早く。枚数のセルフトークで再現性を高めます。
Q: 緊張で頭が真っ白になります。
A: 合図を3語に絞る「減らす設計」を採用。歩幅と視線を固定し、身体の自動運転に任せます。
ベンチマーク早見
呼吸回数とキック枚数が台本通り。
ターンの距離誤差が±30cm以内。
スタートの浮上深度が毎回同じ。
セルフトークが3語以内に収まる。
試合後の短評が30分以内に完了。
まとめ
秒を削る設計は、難しい理論より「同じ測り方と同じ再現」から始まります。分割とストローク、RPEを同じ紙面に置き、週に5分でレビューする。フォームでは姿勢と呼吸角度、キャッチ初動を優先し、抵抗を減らす。練習は強度と技術の順序を整え、ハードの前後を設計する。陸の準備と回復で毎回の再現性を守り、レースでは合図を減らして配分を台本化する。これらを30日で1周させれば、停滞線は薄くなり、現実的に削れる秒が見えてきます。今日の一歩は、時間帯とアップを固定した分割計測、そして「片目水中」の呼吸角度を確かめることです。数字と感覚をつなげ、明日のラップで小さな変化を確認しましょう。

