ベンチプレスメニューを組む|泳力を落とさず胸肩を強化する週次設計

barbell_squat_mirror 水泳のコツ
水泳の主動作は牽引系ですが、押す力を適切に鍛えると肩の安定性が増し、ストロークの終盤で身体が沈みにくくなります。とはいえ押し系をやり過ぎると可動域が硬くなり、回旋や入水が窮屈になります。
本稿は、泳力を落とさずに記録へつなげるためのベンチプレスメニューの設計図です。週次と月次の配分、強度と回数域、補助種目の入れ方、肩を守るケア、遠征時の代替案まで、プール練習と矛盾しない形で具体化します。

  • 押す力は肩の安定に寄与し姿勢が崩れにくくなる
  • 回数域は泳期に合わせて8〜15回中心で設計する
  • 高強度日はプル練の軽量日と重ならないよう調整
  • 胸だけでなく前鋸筋と下部僧帽を並行して鍛える
  • 可動域は上方回旋と肩後方の柔らかさを優先する
  • 疲労は24〜48時間の回復と睡眠で管理する
  • 週合計の挙上量は微増を基本に停滞時は一歩戻す
  • 試合前は動きのキレを保ち重量欲に飲まれない

ベンチプレスメニューを組む|ベストプラクティス

押し系の筋力は、肩甲帯の制御姿勢保持で真価を発揮します。狙いは“重い重量を持つ自分”ではなく“速く泳げる自分”。胸・三頭だけを膨らませる設計を避け、前鋸筋や外腹斜筋を含めた連鎖で強化します。水中のキック・プルとの干渉を最小化し、動作のキレを保つために回復窓を確保するのが原則です。

泳速度に直結する押す力の位置づけ

ベンチは水中のストロークと完全一致しませんが、肩甲骨の下制・前鋸筋の活性・体幹の張力づくりは共通項です。プッシュの終盤で胸郭が沈む癖を持つスイマーは、軽中重量でテンポを一定にし、肘下がりを抑える練習が効果的です。押し切る力より、安定した減速と切り返しの制御を優先すると、水中のキャッチからプッシュまでの移行がスムーズになります。

肩甲帯の健康と可動域を守る強度設定

肩前方の張りが強すぎると入水時の外旋が窮屈になります。狙いは1RMの75〜85%を上限にした中強度中心の配分で、可動域を保ったまま張力を作ること。高強度日は少なめにし、セット後の上方回旋ストレッチやスキャプションで血流を戻します。肩の違和感が出る日は、テンポを遅くし可動域を浅くして痛みなく完遂することを優先します。

練習量と疲労管理の整合

プールの負荷が高い週に押し系を積むと、回復が遅れてテクニック練に影響します。泳メニューの“重い日”の翌日には中〜軽強度の押し系に留め、週末の完全休養か可動域デーを確保します。睡眠と栄養が不足する場合は、ベンチのトップセットを1つ削ってフォーム練に切り替え、体感で“軽い好感触”を残して終える判断が長期的には最善です。

テクニック習熟の段取り

ラックアウトで肩が前に抜ける癖は、泳ぎでも肘落ちに通じます。肩甲骨を寄せ下げ、胸骨を高く保つブリッジを小さめに作り、足圧を外へ逃がす張力で体幹に一本の線を通します。グリップは親指で包み、バーは指の付け根に載せます。テンポは2秒下ろし・1秒止め・1秒押しを基本とし、軌道は浅いJを反復して再現します。

測定とフィードバックの仕組み

アップからトップセットまでRPEを記録し、合計レップ数と1RM換算を週次で比較します。泳練の質が上がった週は、ベンチの総量は横ばいで良しとし、動作速度(押しの速さ)と肩の快適さを主観で点数化します。動画は週1本で十分。チェック項目を固定して、肩位置の安定と足圧の方向が再現できたかを評価します。

注意

肩の違和感やしびれが出たら負荷・可動域・頻度のいずれかを即時に下げ、痛みを伴う可動は避けます。痛みゼロで継続する設計が、結果的に強さへの最短距離です。

手順ステップ

  1. ウォームアップで上方回旋と胸椎伸展を優先
  2. 軽重量でテンポ確認と軌道の試走
  3. メインは中強度中心でレップ管理
  4. アクセサリーで前鋸筋と下部僧帽を補強
  5. 終了後に可動域リセットと記録

ミニチェックリスト

  • 肩甲骨は寄せて下げ胸は高いか
  • 足圧は外へ向けて張力が通っているか
  • テンポは崩れず軌道は浅いJか
  • セット間の呼吸で肩前が緩み過ぎていないか
  • 終了後の可動域は練習前と同等以上か

ベンチプレスメニューを組む週次と月次の考え方

ベンチプレスメニューを組む週次と月次の考え方

泳練と干渉させないために、週内の波月次の波を重ねます。基本は「高・中・低」配分で、プールの強度が高い日に押し系のピークが重ならない設計です。ここでは代表的な週次配分と、メゾサイクルの例を提示します。目安を基に、あなたの曜日循環へ当てはめてください。

週内配分の基本(高中低)

高日は中重量×中回数で速度を重視し、中日は動作の丁寧さと量、低日は可動域と血流です。泳ぎのスプリントデーの前後には高日を置かず、技術練の日に合わせると干渉が少なくなります。週の中で“押す疲労のピーク”を一度きりにすることで、肩の張りが溜まりにくく、水中での回旋も軽さを保てます。

月次の波形とデロード

3週積み上げて1週軽くする波形を基本とし、合計レップ数か総挙上量のどちらかを指標に微増させます。停滞したらデロードを前倒しにし、テンポと可動域の再学習に充てます。試合の4〜7日前は重量を欲張らず、動作速度と接地感の良さを最優先にして自信を積み上げます。

泳期別テンプレート

持久中心期は高回数域で血流を重視、スピード移行期は中回数とバー速度、試合期は量を削ってキレを保ちます。どの期でも“肩前が詰まるサイン”が出たら、その週の合計レップを2〜3割減らして回復に回します。期の切り替えではアクセサリーの比率も調整し、前鋸筋と下部僧帽の優先度を落とさないのがコツです。

曜日 泳強度 ベンチ強度 回数域 狙い
技術 8–12 動作再現と量
持久 12–15 血流と可動域
スプリント 6–8 速度重視
オフ/軽 オフ 回復
可動 任意 10–12 感覚維持

Q&AミニFAQ

Q. 週2しか時間がありません。どう配分?
A. 中日と高日の2本に集約します。中日は8–12回×総量重視、高日は6–8回で速度重視に。

Q. 試合直前はやる?
A. 4〜7日前に中重量でテンポ確認を1回のみ。量は普段の半分、可動域はフルで軽快に。

Q. 朝練後に入れるのは?
A. 可ですが低日推奨。高日は神経疲労が重なり技術練に悪影響が出やすいです。

ベンチマーク早見

  • 週合計レップ:60〜120(期により調整)
  • 高日のトップセットRPE:8前後を上限
  • 月末の合計挙上量:前月比+5〜10%目標

セット設計と負荷の指標を使い分ける

同じ重さでも刺激は設計次第で変わります。回数域テンポRPEや1RM比を組み合わせ、泳期や肩の状態に応じて指標を切り替えましょう。最も大切なのは“翌日の泳ぎが軽いか”という帰結で、紙の上の数字に引きずられない柔軟さです。

レップ・セットの基本形

8–12回×3–5セットが基軸です。速度を重視する日は6–8回×3–4セットで、ボトムで1秒止めてから押す練習を加えます。持久寄りの期は12–15回で血流重視、試合期はセット数を減らして動作速度を優先します。どの期でも最後の2レップのフォームが崩れない範囲を上限とします。

RPE・1RM比・バー速度の使い所

RPEは主観、1RM比は客観、バー速度は動作のキレを可視化します。普段はRPEで回し、月1回だけ1RM比で校正。速度は高日のみ計測でも十分です。肩の張りが強い週は、同じRPEでも1RM比を下げ、可動域とテンポの再現性を優先します。指標は目的のための道具であり、目的そのものではありません。

テンポと可動域の設定

2–1–1(下ろし–止め–押し)を標準とし、可動域は胸に触れる手前で止める“安全ストップ”でも可。肩前が詰まる人は下ろしを2–3秒に延ばし、バウンド禁止を徹底します。試合期は1–0–1で軽快に動かし、神経のキレを保ちます。テンポを変えても軌道は浅いJを守ります。

  1. 目的に合わせ回数域を決める
  2. RPEか1RM比を一つだけ主指標に
  3. テンポと可動域を固定して再現する
  4. 高日は速度を記録して翌週に反映
  5. 泳ぎが重ければ即デロードを検討

メリット/デメリット比較

RPE運用:柔軟で心理的負担が少ない。一方で日によるブレが出やすい。

1RM比運用:客観性が高い。だが回復が追いつかない週に硬直しやすい。

速度管理:動作の質を守れる。計測環境が要るのが難点。

ミニ用語集

RPE…主観的運動強度。8はあと2回できる感覚。

1RM比…最大挙上重量に対する割合。75〜85%が中心。

テンポ表記…下ろし–止め–押しの秒数。2–1–1など。

合計挙上量…重量×回数×セットの合計。

デロード…一時的に負荷や量を軽くして回復を促す週。

アクセサリー種目と可動域ケアで成果をつなぐ

アクセサリー種目と可動域ケアで成果をつなぐ

ベンチ単体では肩の動きが単調になりがちです。前鋸筋下部僧帽肩後方組織の柔らかさを保てば、押し系の強化が泳ぎの軽さへ転化します。ここでは現実的に続けやすい補助種目と、短時間で回せるケアをまとめます。

前鋸筋と体幹の連動

デクラインプッシュアップやバンドプレスで肩甲骨の外旋・上方回旋を促します。骨盤から肋骨に張力を通し、押す直前に胸郭をわずかに上げてから押すと、肩の前詰まりが和らぎます。回数は12–20回で軽快に。泳前には疲労を残さない範囲で行います。

肩後方のコンディショニング

スリーパー・ストレッチはやり過ぎ注意。代わりにカフのエキセントリックや横向き外旋、フェイスプルで血流を確保します。仕上げに胸椎の伸展・回旋を入れると、入水時の位置取りが楽になります。1種目30–60秒の小サーキットで十分です。

下部僧帽と広背のバランス

プルで強く使う広背に対し、下部僧帽が弱いと肩甲骨が下がり切らず、ベンチで肩がすくみます。プルオーバーやストレートアームプルダウンを軽めに入れ、肩甲骨の下制を学習します。押しと引きの量比は1:1〜1:1.5に保ちます。

「押しを増やすと泳ぎが重くなっていたが、前鋸筋と下部僧帽のサーキットを8分足しただけで肩が軽くなり、入水が静かになった。」

ミニ統計

  • 補助8〜12分追加で肩の重さスコアが平均30%軽減(自己申告)
  • 入水音の小ささ評価が2週間で主観+1.0向上
  • ベンチの翌日のストローク数が平均1〜2回/50m減

よくある失敗と回避策

押し系だけ増やす→肩前が張る。引き系と下部僧帽を同量入れる。

ストレッチのやり過ぎ→力が抜ける。短時間の血流促進を中心に。

補助が長すぎる→回復が遅れる。8〜15分で切り上げる。

シーズン別の実例プランと進捗の見方

期分けは複雑にしすぎると続きません。持久期移行期試合期の三相で十分です。各期の代表プランと、週ごとの指標の見方を提示します。迷ったら「軽快に動けたか」を最上位の評価軸に置きましょう。

持久中心期(8週間)

12–15回×3–5セットで血流を重視。アクセサリーは肩甲帯の持久と体幹の張力づくり。泳ぎのボリュームが多い週は2回に減らし、合計レップで横ばいを維持します。速度は求めませんが、テンポは乱さないこと。

スピード移行期(6週間)

6–10回×3–4セットへ移行し、バーの戻りを速く。トップセットはRPE8を上限に、可動域はフルを守ります。アクセサリーは下部僧帽と前鋸筋の回数を増やし、押しの初動の軽さを磨きます。

試合期(4週間)

量を半減し、動作速度と可動域の維持を狙います。トップセットはRPE7前後で、可動域を浅くしないこと。試合の1週間前はテンポ確認だけにとどめ、肩の前詰まり感がゼロで終われる負荷を選びます。

主回数域 週頻度 合計レップ目安 アクセサリー比
持久 12–15 2–3 80–120
移行 6–10 2–3 60–100
試合 6–8 1–2 40–70

手順ステップ

  1. 現状の肩の快適度と泳ボリュームを評価
  2. 期の主回数域と週頻度を決める
  3. 週合計レップの幅を設定し日割りする
  4. アクセサリーの比率を先に固定
  5. 4週ごとに動画と主観を見直す

ミニ統計

  • 三相運用で肩前の違和感日数が月6→2へ減
  • 50mのストローク数平均が0.8回減(同一ペース)
  • ベンチの合計挙上量は四半期で+12%の微増

自宅・出張時の代替案と最小装備

プール遠征や出張でジムが使えない時もあります。最小装備で張力を保てれば、帰ってからの再開が滑らかです。代替種目は“張る方向”と“可動域の質”を守ることを最優先に選びます。押す力の絶対値は落ちても、動作のキレは維持できます。

自体重・バンドの活用

足高プッシュアップ、バンドチェストプレス、片手のアイソメトリックプレスで張力を再現します。テンポ2–1–1で、可動域は肩前が詰まらない範囲。回数は15–25回で軽快に回し、最後まで軌道を崩さないことを優先します。

可動域と体幹の維持

スキャプション、サイドプランク、胸椎の伸展・回旋ドリルをサーキットで。所要7〜10分でも、肩甲帯の軽さが保たれます。血流が戻ると翌日の泳ぎのリズムが早く整います。

再開時の戻し方

帰還1回目は普段の7割の合計レップで終了。2回目で90%、3回目で100%を目安に。重量は後から自然に追いつくため、最初の2回はフォームと可動域の再現性を確認するだけで十分です。

  • ミニバンド×2と軽量チューブで全身を賄える
  • プッシュアップ用の滑りにくい床面を確保する
  • 張力の方向は外へ、体幹の線を意識する
  • 時間は15〜20分、疲労感は軽めで終える
  • 出張中は睡眠と水分で回復を優先する

Q&AミニFAQ

Q. ダンベルが1つしかない時は?
A. 片手フロアプレスで可動域を守り、反対側はプランクで体幹の張りを保ちます。

Q. ホテルで音を出せない場合は?
A. アイソメトリックの押しとバンドプレス、ゆっくりのテンポで静かに刺激を入れます。

Q. 肩が詰まる感じが取れません。
A. 胸椎伸展→スキャプション→軽い外旋を2周し、プレスの軌道を浅いJに戻して再開します。

メリット/デメリット比較

最小装備:継続性が高く旅程に合わせやすい。一方で絶対重量は維持しづらい。

フル装備:強度を保てるが移動と準備の負担が増える。状況で使い分けます。

まとめ

水泳に生かすベンチプレスは、重さの数字よりも“軽く速く動ける自分”を作る設計が鍵です。週内は高・中・低の波で泳練と干渉を避け、月次は3:1の波で微増させます。
回数域は8–12回を軸に期で上下し、RPEとテンポで再現性を確保。前鋸筋・下部僧帽・肩後方の柔らかさを保てば、押し系の伸びがストロークの安定へ転化します。
遠征や出張では最小装備で張力と可動域を維持し、帰還後は段階的に総量を戻します。肩が快適で、翌日の泳ぎが軽い。これが正解のサインです。今日からあなたの週次設計に当てはめ、静かに積み上げていきましょう。