本稿は最新のコーチングで一般化している考え方を、現場で迷いにくい言語と順序へ整理しました。目的は、推進を失わずに呼吸が回り、距離当たりストローク数とタイムの両立を図ることです。
- 入水は肩幅やや内側で騒ぎを作らない
- 指先主導でキャッチへ滑らかに移行する
- 肘の高さを保ち前腕で面を作る
- 体幹のロールと同時に水を後ろへ送る
- フィニッシュは太腿横で押し切り過ぎない
- リカバリーは肘先行で肩に優しく戻す
- キックと呼吸でテンポを乱さない
クロールの手のかきを読み解く|図解で理解
スムーズな「手のかき」は、入水で乱れを作らず静かに始まり、キャッチで前腕の面を速やかに水へ合わせることから立ち上がります。入水位置・角度・深さ・時間差の四点が整うと、以降のプルが少ない力で強くなります。逆に入水で手首が折れたり、肩幅から大きく外れたりすると、キャッチが遅れ、水を前に押す無駄が増えます。短い距離でも長い距離でも、乱れの少ない入水が共通解です。
入水位置と角度を静かに決める
理想は肩幅やや内側、指先が最初に触れ、手首や肘が後から続く順です。騒がしい入水は水面を叩き、前方の整った層を壊します。角度は水面へ浅く、手首は折らずに前腕の延長を保つと、指先が自然に前方へ伸び、キャッチ準備へ滑るように移れます。わずかな音も評価材料で、静かさは軌道の正確さを示します。
指先主導でキャッチへつなぐ時間管理
入水からキャッチまでを急がず、しかし迷わずに移行することが大切です。指先→手のひら→前腕の順に面を作り、肘は高く保って前に流れません。ここで体幹のロールが遅れると、肩だけが内旋して肩峰を詰めやすいので注意です。意識は「触れて、面を合わせ、受ける」の三拍子で、息を止めずに微細に吐き続けると余計な力が抜けます。
肘の高さを保つ下準備
キャッチ初期の肘は肩より落とさず、前腕で水の面を作る土台になります。肘が落ちると手のひらが下向きとなり、水を前に押すベクトルが生まれ推進が鈍ります。肩甲骨を軽く下制させ、脇の下に空間を意識しておくと肘の位置が安定します。力感は小さく、しかし骨格の位置は明確に保ちます。
前腕の面づくりを感じ取る
「掴む」とは握ることではなく、手のひらと前腕で一枚の板のように水を捕まえることです。指先はわずかに開き、手のひらの圧(感じる水圧)を均等に受けます。親指だけが強く当たると、面は崩れて方向性が乱れます。面ができたら、すぐ力まずに「受け止める時間」を一瞬作り、そこから体幹の向きと同時に後方へ送ります。
キャッチの合図を見失わない
キャッチの合図は、手掌全体に水圧が乗った瞬間です。押し始めを急ぐと、水を逃しやすく、肩も前へ詰まります。逆に待ち過ぎると沈みや蛇行の原因になります。吐きながら、胸骨がわずかに沈むタイミングと合わせると、軽い力で厚い水を得られます。合図は内省的な感覚ではなく、結果としての速度の伸びで確認します。
手順ステップ
- 肩幅やや内側に静かに入水する
- 指先→手のひら→前腕の順で面を作る
- 肘を高く保ち手首を折らない
- 胸の沈みと同時に受ける時間を作る
- ロールと同期して後方へ送る
ミニチェックリスト
- 入水音は小さいか
- 指先から静かに触れているか
- 肘が前に流れていないか
- 手首が折れていないか
- 受けてから押し始めているか
ミニ用語集
キャッチ…水を「受ける」初期局面。前腕の面づくりが肝心です。
ロール…体軸の回旋動作。肩だけで回さず、胴体で向きを変えます。
圧感…手掌に感じる均一な水圧。これが合図になります。
プル軌道の設計とハイエルボーの特徴を使い分ける

キャッチの先には、ストレート気味に後ろへ送る方法と、わずかに内外へ曲線を描く方法が存在します。どちらも目的は同じで、体幹の向きと一致する後方ベクトルを作ることです。ハイエルボーは肘が高い位置を保つ技術で、肩を保護しつつ面を維持します。過度な意識は力みを生むので、骨格の位置の管理として扱います。
ストレートとS字の差は「管理のしやすさ」
ストレートは方向管理がシンプルで、長距離やテンポ重視に向きます。S字は肩と体幹の連携が得意な人に合い、わずかな横ベクトルで厚い水を捕まえやすい利点があります。大切なのは、「どちらが速いか」ではなく「自分のロール速度と呼吸条件で再現しやすいか」です。映像だけを真似ず、速度の伸びとストローク数で判断します。
体幹ロールと肩の外旋内旋の秩序
ロールが先で肩が後、が原則です。肩だけで面を作ろうとすると、肘が落ちて手首が折れ、前方へ押してしまいます。肋骨の向きが変わると同時に、肩甲骨は軽く下制外旋して肘が高く保たれます。ロールは大き過ぎると蛇行の原因になるため、蹴りと呼吸のタイミングに合わせて必要十分に留めます。
テンポとピッチの関係を可視化する
テンポを上げるとキャッチの「受け」が短くなり、面が薄くなりがちです。ピッチが上がっても距離当たりストローク数が増えすぎない範囲を探ると、最小の努力で最大の速度を得られます。メトロノームやテンポトレーナーを用い、区間ごとにピッチとタイム、ストローク数を記録すると、適正が見えてきます。
メリット
- ストレートは方向が安定し疲労管理が容易
- S字は厚い水を捉えやすく加速感が出る
- ハイエルボーは肩の安全域を確保しやすい
デメリット
- ストレートは面が薄いと失速しやすい
- S字は過度で蛇行し呼吸が乱れやすい
- ハイエルボーは意識過多で力みを招く
肩でかこうとするほど肘が落ちます。胴体の向きが変わるから肘が高く保てる、という順序を忘れないでください。
よくある失敗と回避策
S字を大きく描く:横ベクトルが増え蛇行。→曲率は小さく、体幹の向きと揃える。
肘を固める:肩に負担。→高い位置を保ちつつ肘は「浮かせる」感覚で。
フィニッシュとリカバリーで推進を途切れさせない
プルの終盤は、押し切り過ぎで腰が反ったり、手首を余計に返して乱れが出やすい局面です。フィニッシュの方向・押し加減・リカバリーの開始位置を整えれば、前方への抵抗が減り、次の入水が静かになります。テンポが速いほど、終わり方の秩序が速度維持の鍵です。
太腿横で押し切り過ぎない
押し切りたい欲求は自然ですが、太腿より後ろで無理に水を押すと、腰が反って下半身が沈みます。フィニッシュは太腿の横で終え、手は外へ抜けていきます。最後の伸びはキックとロールで作り、腕は「やり切らない」勇気が必要です。余韻で進む距離は呼吸の余裕に直結します。
リカバリーは肘先行で肩を守る
水面上では肘を先に動かし、前腕と手は脱力してついていきます。肩峰の圧迫を避けるため、肩をすくめず、広背筋で肩甲骨を軽く下げる感覚を保ちます。テンポが速い場合ほど、肘先行の軌道がリズムを保ち、次の入水を静かにします。
復帰時の手首はリラックス
リカバリー中に手首を固めると、入水時に手首が折れて音が出ます。親指をやや先行させるが、刺し込まない程度に保ちます。肩から手の先までを一本の軽い棒と捉え、空中の移動に力を使わないほど、水中で強く働けます。
| 局面 | 狙い | やりがち | 代替の言葉 |
|---|---|---|---|
| フィニッシュ | 太腿横で終える | 押し切り過ぎ | やり切らない勇気 |
| リカバリー | 肘先行で脱力 | 手先主導 | 肩を下げて運ぶ |
| 復帰 | 手首リラックス | 固定し過ぎ | 軽い棒の感覚 |
ミニ統計
- 押し切り過ぎを修正後、ストローク数が1〜2減少
- 肘先行の意識で入水音の回数が体感で半減
- 復帰脱力でタイムのバラつきが縮小
ミニFAQ
Q. 押し切らないと損では?
A. 後半の無理押しは抵抗増です。推進はキックとロールで補います。
Q. リカバリーで手が沈みます。
A. 肘を先に運ぶと手が軽くなります。肩をすくめないこと。
手のひら角度と前腕ローリングの特徴を磨く

「面」を作る主役は手のひらと前腕です。角度設定は一度で正解を固定するものではなく、距離・テンポ・呼吸パターンで最適帯が動きます。角度は水を「前に押さない」ための抑制装置であり、前腕のローリングは面の滑りを保つための微調整です。骨格の配置と脱力が揃うと、少ない角度変化で厚い水を得られます。
角度の最適帯を知る
手のひらはわずかに外旋気味、しかし前へ向け過ぎない範囲が基準です。外へ逃がす角度が強すぎると蛇行、内に向け過ぎると胸に当たり抵抗が増えます。角度は一定ではなく、キャッチ直後はやや立て、プル中盤はやや寝かせて面を滑らせます。拍ごとに微調整する技術が推進の滑らかさを生みます。
前腕ローリングの役割
前腕を「ねじる」のではなく、手首から肘までを一本の面としてわずかに回す感覚です。ねじり過ぎると前腕が硬直し、指先の圧感が失われます。面が均一に水を受ける角度へ、必要最小限でローリングすることが、疲れない速さを作ります。
指先間隔と手掌の柔らかさ
指は1〜3mmほど開きます。閉じ過ぎは面が小さく、開き過ぎは水が漏れます。親指は軽く添える程度で、圧を一点に集めないようにします。手掌の柔らかさは敏感さであり、力を抜くほど圧感は「重く」なります。硬さは速度を奪うことを忘れないでください。
- ベンチマーク早見
- 角度:前へ向け過ぎない・外へ逃がし過ぎない
- ローリング:必要最小限で面を滑らせる
- 指間隔:1〜3mmで圧を均等に受ける
- 感覚:柔らかさで重い圧感を得る
- 修正:蛇行や胸接触が出たら角度を戻す
「角度を作る」のではなく「面を失わない」ことに集中したら、手先の忙しさが消えて距離が勝手に伸びた。
角度を固定観念にせず、圧が均一に重く感じられる帯を探します。速さは角度そのものではなく、面の一貫性が生みます。
キックと呼吸がかきへ与える影響を整える
手のかきが崩れる背景には、キックと呼吸の同期不全が隠れています。2ビート・6ビート・呼吸のタイミングを整理すると、キャッチの受けが長く、プルの方向が一定になります。腕をいじるより、下半身と呼吸の秩序を優先して整える方が効果的です。
2ビートと6ビートの役割
2ビートは長距離や省エネ向きで、ロールと一体化した推進が得意です。6ビートは加速やテンポ維持に強く、短〜中距離で威力を発揮します。どちらでもキャッチの受けを短くし過ぎないのが共通のコツで、キックを「拍子」ではなく「方向の補助」として使うほど、手の面が安定します。
呼吸側の失速対策
横を向くと前方抵抗が増えやすく、キャッチの受けが薄くなります。顎を引き、目線はやや斜め後ろ、呼吸は片目水中でも可能です。息を吸う時間を短く、吐きは連続させると、首と肩の緊張が減り、肘の高さが保ちやすくなります。呼吸で止まらない人が速いのは、この秩序によるものです。
頭位と体幹の安定
頭が上がると腰が落ち、キャッチの面が薄くなります。頭頂から遠くを突き刺す意識で、首後ろを長く保つと、胸骨の沈みがわずかに生まれて受けが安定します。視線は真下〜やや前、プールのラインを基準に蛇行を抑えます。
比較:2ビート
- 省エネで長距離に適する
- ロールと同期しやすい
- テンポ上げには工夫が必要
比較:6ビート
- 加速とテンポ維持が得意
- 方向管理を怠ると散らかる
- 疲労管理に注意が必要
ミニFAQ
Q. 呼吸で失速します。
A. 先に吐き続け、吸う時間を短くします。片目水中でも可能です。
Q. キックは強く?
A. 方向補助が主目的です。強さより「いつ・どちらへ」を整えます。
チェックポイント
- 呼吸中も指先が前方を指しているか
- キックの拍で頭位が揺れないか
- 吐きが途切れていないか
ドリルと練習設計で特徴を身体化する
検索で多いクロール 手のかき 特徴という言い回しは、結局「再現できる感覚と言葉」に落とすことが目的です。ドリル→セット→記録→修正の循環を作り、動画や計測で見える化すれば、感覚頼みから卒業できます。ここでは実装しやすいドリルと、距離当たりストローク数(DPS)とピッチの管理方法を提示します。
面づくりドリルの選び方
キャッチアップ、片手クロール、フィン付きスキャリングなど、面を作って受ける時間を学ぶドリルから始めます。道具は目的が明確なときに限定的に使い、終盤は素泳へ還元します。動画で入水音と泡の量、肘の高さを観察すると、ドリル効果が可視化できます。
セット例とRPE管理
RPE(主観的強度)は「楽に速い」を実装する物差しです。アップ後に技術セット、メインで距離変化、ダウンで反省という流れを一定化します。テンポトレーナーとパドルは常用せず、週の中で位置づけを決めて使うと、感覚の依存を避けられます。
記録とフィードバックの運用
1本ごとにタイム、ストローク数、ピッチ、呼吸回数をセットで記録し、前後半のブレを確認します。ブレが小さいほど面の一貫性が高く、速さの再現性が出てきます。動画は真横と斜め前の2方向が基本で、週単位の比較を習慣化します。
- 技術ドリルで面づくりを学ぶ
- 素泳へ還元しテンポとDPSを測る
- 週内で道具の使用位置を固定する
- 各本の記録を同じ様式で残す
- 動画は同角度で比較し習慣化
ミニ統計
- 技術セット導入で100m当たりストロークが2〜3減少
- テンポ固定でタイムの標準偏差が縮小
- 動画比較で肘落ち修正の再現率が向上
よくある失敗と回避策
ドリル専用化:素泳へ還元しない。→練習末尾で必ず素泳にブリッジ。
道具過多:感覚の上書き。→週内の使用位置を固定し間欠的に使う。
まとめ
手のかきは「力を出す動作」ではなく、「面を維持し方向を一致させる仕事」です。入水は静かに、キャッチは前腕で受け、プルは体幹の向きと一致させ、フィニッシュはやり切らず、リカバリーは肘先行で肩を守ります。
角度は固定せず、圧が均一で重く感じられる帯を探り、キックと呼吸の秩序で速度を途切れさせないことが、疲れない速さへの近道です。
ドリルとセット、記録と動画の循環を作れば、感覚は再現性に変わります。
今日からは入水音と泡、肘の高さ、手の面の一貫性を観察し、少ない力で長く速く進める泳ぎを設計しましょう。積み重ねたデータが、あなた自身の最適解を静かに示してくれます。


