まずは読みながら水中で試せる簡単なチェックをまとめました。
- 入水は指先から斜め前下へ滑らせます
- キャッチは手首で折らず肘から面を作ります
- プル中は手のひらで水を後ろへ押し切ります
- 指は1〜3mmの微開きで乱流を味方にします
- 呼吸時も手の面を崩さず圧を逃しません
クロールで手のひらを使い切る|背景と文脈
最初に全行程の地図を共有します。手のひらは単独で働きません。肩甲帯と体幹、キックの位相と連動しながら、面の向きを保って圧を作ります。細部の前に大枠をつかむと、各場面の狙いがはっきりします。ここを理解すると、次の練習で迷いが激減します。
入水の狙いは抵抗最小とキャッチ準備の両立
入水は指先がやや下、手のひらは外へ30度前後で入ります。肩幅の線上よりもわずかに内側に落とし、肘は水面近くで高い位置を維持します。ここで手首を折ると面が崩れ、のちのキャッチが遅れます。入水直後に前腕で水を感じ、余計な泡を抱き込まないよう静かに沈めます。最小抵抗で進みつつ、面の準備を同時に完了させます。
エクステンションで「面を張る」感覚を作る
前方へ腕を伸ばすとき、肩甲骨は前方へ滑り、胸郭の回旋と連動します。手のひらは外向き30度付近をキープし、指は軽く揃えて微開きにします。前腕がななめ板のように水を支え、胸から遠くへ体を運ぶ感覚をつかみます。伸ばし切らず、肩に詰まりが出ない範囲で止めるのがコツです。ここで作る面の張りが、この後のキャッチの成功率を決めます。
キャッチは手首でなく肘で水を掴む
キャッチの第一動作は肘を外上へ保ち、前腕を回して水に当てていくことです。手首から曲げると面積が減り、圧が逃げます。肘が落ちると手のひらが下を向き、前へ押して失速します。胸の回旋と同期しながら、手のひらと前腕で「面」を作り、水を後ろへ流す準備を完了させます。指は強く握らず、余計な力を抜いて感度を保ちます。
プルは圧を逃さず一直線に後方へ送る
キャッチで作った面を保ったまま、胸の回旋と腹圧で体を前へ送ります。手のひらは常に体の移動方向と逆、つまり後ろを向き、外へ膨らみすぎないS字の浅い軌道で押します。時速換算でゆっくりでも、水に対しては強い後流が残れば十分に推進は生まれます。プル中に手の面が上や下を向けば圧が消え、前進が止まります。
フィニッシュとリカバリーで面をリセットする
腰付近で押し切ったら、手のひらを内に返して水から抜きます。抜け際に水を跳ね上げると抵抗になります。リカバリーでは手のひらをリラックスさせ、肩と肘の順で前へ運びます。次の入水の直前に再び外向き30度へセットし、面をすばやく作ります。疲れてもここを丁寧にすると、フォームの崩れが最小で済みます。
手順ステップ
- 指先から静かに入水し手首は折らない
- 前腕で面を作り肘を外上へ保つ
- 胸の回旋と同期して後方へ押す
- 腰で押し切り滑らかに抜く
- 外向き30度で次の入水を準備
注意:手のひらの内外角は過度な固定を避けます。回旋と連動した「変わり続ける30度」が目安です。
ミニ用語集
キャッチ:水を掴み推進の始点を作る局面。
ハイエルボー:肘を高く保ち面積を稼ぐ姿勢。
回旋:胴体のねじり動作で推進を補助。
S字軌道:外内へ浅く弧を描く押し方。
入水角度とキャッチ初動の作り方を定量化する

角度の目安を持つと練習が安定します。水の密度は一定なので、入水角度と前腕の傾きの再現性が伸びの差になります。ここでは数値とチェックで迷いを減らします。
入水角は外向き30度前後で肩幅やや内側が基準
横から見て指先は水面に対し10〜20度下向き、正面からは手のひら外向き約30度が扱いやすい範囲です。肩幅の中心線より3〜5cm内側に落とすと、肘の高さを保ちやすくなります。肩が固い人は角度を少し小さくして、無理のない回旋で面を作ります。いずれも「手首を折らない」が共通の鍵です。
キャッチ初動は前腕で板を作り胸で押し込む
初動で肘を外上に固定し、前腕を回内させて水に当てます。腹圧を少し高め、胸郭の回旋で体を前へ運びます。手のひら単体で押すのではなく、胸と背中で「体を手の下へ運ぶ」意識に切り替えると、肩の負担が減り推進が途切れません。視線はやや下、首の緊張を抜くと面が安定します。
現場チェックは泡の量と肩の重さで判定する
良い角度なら入水からキャッチにかけて泡は少なく、肩の重さが抜けます。泡が多いなら手首が折れています。肩が重いなら角度が深すぎ、前方で水を押しています。動画を横から撮り、入水後0.3〜0.5秒で肘が最も高いフレームを探すと、角度の再現性が一気に上がります。
比較ブロック
- 外向きが小さすぎ:キャッチ遅れやすい
- 外向きが大きすぎ:肩前面へストレス
- 適正範囲:面が保たれ圧が逃げにくい
ミニチェックリスト
- 入水で手首が折れていないか
- 肘が水面近くで高く保てているか
- 入水直後の泡が少ないか
- 胸の回旋と初動が同期しているか
- 肩に痛みの前兆が出ていないか
ケース:外向きを40度以上に固定して肩の張りが悪化。30度付近に戻し、胸の回旋を先行させたら痛みが消失し、50mの後半で失速が減少。
クロールで手のひらの角度と圧の作り方を固める
角度が決まったら「圧」を育てます。圧は速度そのものではなく、面で受け続ける時間の積み上げです。局面ごとの圧の感じ方を言語化し、再現性を高めます。
微開きの指で境界層を味方にする
指は1〜3mmの微開きにすると、指間の微小な流れが乱れ、見かけの面積が増すと言われます。実感としては「貼り付く」感覚が増え、少ない力で前へ進みます。握り込むほど水が逃げ、開き過ぎると面が崩れます。水温や疲労で感覚は変わるため、ウォームアップで開き幅を探る習慣を持ちます。
前腕と手のひらの一体化で圧を維持する
手のひら単独で押す意識を捨て、肘から指先までを一枚板にします。肩はすくめず、胸鎖関節からの回旋で「体を手の下へ運ぶ」意識に切り替えます。これでプル全域で圧が切れません。高出力を狙うほどフォームは粗くなりがちですが、板の一体感を優先すれば速度は自然に上がります。
フィニッシュで圧を残して抜く技術
腰の横で押し切る直前、手のひらは依然として後ろを向いています。ここで上や外に弾けば乱流が増えます。掌を内へ軽く返し、肘を先に抜くと抵抗は最小です。抜け際に肩を前へ投げすぎると次の入水が暴れ、面の再セットに遅れが出ます。小さく静かに、が合言葉です。
Q&AミニFAQ
Q. 指の開きは毎回同じにしますか。
A. 水温と疲労で感覚が変わるため、ウォームアップで最適を探します。目安は1〜3mmです。
Q. 圧が抜ける感覚の原因は。
A. 手首折れと肘落ち、呼吸時の面崩れが主因です。動画で入水後0.5秒の手首角を確認します。
ベンチマーク早見
- 入水外向き:約30度±10度で安定
- 指の開き:1〜3mmの微開き
- キャッチ時間:入水後0.3〜0.5秒
- プル軌道:浅いS字で外へ膨らみ過ぎない
- フィニッシュ:腰横で押し切り静かに抜く
- 面を作る→押す→抜くの順を崩さない
- 胸の回旋を先行させて肩の負担を減らす
- 視線はやや下で首の力を抜く
- 左右差はドリルで個別に修正する
呼吸とリカバリーが手の面へ与える影響を整える

呼吸の瞬間に面が崩れると、圧は消えます。そこで頭頸部と肩のタイミングを合わせ、手のひらの向きを乱さない工夫を入れます。省エネで安定する呼吸連携を作ります。
呼吸側の手はキャッチを遅らせて面を守る
横を向くと体は沈みやすく、手が下を向きます。呼吸側のキャッチ初動をほんの一瞬遅らせて、反対の手で前方支持を確保します。頭は水面すれすれで回し、持ち上げません。目線は横下、口だけを出します。これで手の面が崩れず、圧が保たれます。呼吸を恐れないことが安定への近道です。
リカバリーは肩から先行し手は力を抜く
水上の腕は軽く、肩→肘→手の順に前へ運びます。手のひらはリラックスし、爪先を前に向ける意識で次の入水位置へ誘導します。肘が先に落ちると前方支持が消え、入水で泡を抱きます。肩の自由度を保つため、胸郭の回旋を止めないのがコツです。
片側呼吸と両側呼吸の使い分け
片側はリズムが作りやすく、両側は左右の面の対称性が整います。試合期は片側でテンポを上げ、基礎期は両側でフォームを均します。呼吸側で面が崩れやすい人は両側で矯正し、得手側で圧の感覚を先に作るのも有効です。場面で使い分ける柔軟さが大切です。
ミニ統計
- 呼吸時の頭上げ抑制でストローク長が増加
- 両側導入で左右差の入水位置が縮小
- 動画確認を週2回でテンポの乱れが減少
- 無呼吸25mで面維持の感覚を先に作る
- 片側→両側→片側の順でリズムを往復
- 呼吸3回に1回は低呼吸で顔を小さく回す
- リカバリーの肘高を鏡で事前学習
- 仕上げに25m×4で面を崩さず確認
よくある失敗と回避策
頭を上げる:腰が沈み面が下向きに。横下を見る。
肘が落ちる:前方支持が消滅。肩→肘→手の順で回す。
息を急ぐ:面が乱れる。3回に1回の低呼吸を挟む。
キックと体幹回旋で手の面を助ける連携設計
上肢だけで圧は保てません。キックと回旋が面の安定を助けます。位相合わせを意識すると、少ない力で水を大きく押せます。実際の連携方法を表と手順で明確にします。
2ビートと6ビートの位相を選ぶ
長距離は2ビート、短中距離は6ビートが基準です。2ビートは回旋の切り替えと同時に強い一蹴で面を支えます。6ビートは左右3発の配置で圧が切れづらく、テンポを上げやすいです。どちらでも、キャッチ直前の小さなキックが面の張りを助けます。自分の距離で選びましょう。
体幹回旋は面の角度を保つ「親玉」
回旋が主、腕は従です。胸郭が先行して体を手の下へ運ぶと、手のひらは後ろを向いたまま圧を維持できます。腹圧を少し高め、骨盤と胸郭の位相差を小さくすると、肩周りの負担が減ります。回しすぎて傾くと入水位置がぶれます。小さく速い回旋で十分です。
テンポとストローク長の最適帯を探す
メトロノームでテンポを刻み、25mのストローク数とタイムを記録します。圧が抜けない範囲でテンポを上げ、ストローク長が大きく落ちる手前が最適帯です。この帯で練習を積むと、フォームが崩れずに速度が伸びます。週ごとに見直し、季節や体調で帯を微調整します。
| 距離 | キック | テンポ目安 | 観察指標 |
|---|---|---|---|
| 400m+ | 2ビート | 0.95〜1.10秒/腕 | 泡の少なさと肩の軽さ |
| 200m | 6ビート | 0.80〜0.95秒/腕 | 入水後0.5秒の肘高 |
| 100m | 6ビート強 | 0.70〜0.85秒/腕 | フィニッシュの静けさ |
| 50m | 6ビート全力 | 0.55〜0.75秒/腕 | 面の維持時間 |
| ドリル | 軽く | 1.10〜1.30秒/腕 | 面の感覚の明瞭さ |
手順ステップ
- 距離に合わせテンポ帯を仮設定
- 片側25mで回旋先行を確認
- 2ビート/6ビートを交互に試す
- ストローク数×タイムを記録
- 最小疲労で最大距離の帯に固定
注意:テンポ上げで面が崩れたら即座に帯を下げます。圧を感じることが最優先です。
ドリル群とセット設計で面の再現性を高める
感覚を固めるには反復の質が重要です。短時間で効果が出やすいドリルと、セット設計を組み合わせ、手のひらの面を再現する力を育てます。自分専用のメニューに落とします。
代表ドリルと狙いの対応関係
キャッチアップは前方支持と面の張りを学べます。フィンガーチップは指先からの入水と微開きの感覚を磨けます。片手スイムは左右差の修正に有効です。スカーリングは手のひらの角度感度を高めます。各ドリルはゆっくり丁寧に行い、動画で確認すると定着が速くなります。
セット構成は感覚→速度→持久の順で積む
最初にドリルとイージーで面を作り、次にプルブイやパドルを軽く用いて速度域で面を確認します。最後にテンポを保った持久セットで再現性を試します。疲労で崩れたら即座にドリルへ戻し、良い感覚で終えるのが翌日に効きます。量より質を優先しましょう。
記録とフィードバックのサイクル
25mごとのストローク数、入水後0.5秒の肘高、フィニッシュの静かさをメモします。週1回は横撮り、月1回は水中撮影で確認します。客観指標と主観感覚を紐づけると、感覚の再現が早まります。小さな改善でも言語化して残すと、次の練習で再現性が跳ね上がります。
- キャッチアップ25m×6で面の張りを確認
- フィンガーチップ25m×6で入水を整える
- 片手スイム25m×6で左右差を修正
- スカーリング25m×8で角度感度を強化
- プル50m×6で圧を速度域で検証
- テンポ走100m×4で帯の確認
ミニ用語集
キャッチアップ:片腕が前で待ってから入水。
フィンガーチップ:指先水面なぞり入水。
スカーリング:小刻み往復で面を探す。
テンポ走:一定テンポで距離を保つ。
Q&AミニFAQ
Q. パドルは使うべきですか。
A. 軽量小型でフォームが安定してから導入。面の確認が目的で、出力増だけに使いません。
Q. スカーリングの感覚が曖昧です。
A. 指の開き幅を変え、手首ではなく肘起点で前腕の角度を微調整します。泡の少なさを指標にします。
まとめ
クロールの推進は、手のひらをどう向け続けるかで決まります。入水で静かに面を作り、キャッチで前腕と一体の板にして、プルで後方へ送り切ります。呼吸やリカバリーで面を乱さず、キックと回旋で位相を合わせます。ドリルで感覚を言語化し、セットで再現性を確かめます。数値の目安を持ち、動画で客観視し、日々のメモで微調整する。小さな一貫性の積み上げが、大きな伸びに変わります。今日の練習では「入水外向き30度・手首を折らない・腰で押し切る」の三つだけを意識して泳ぎ出しましょう。


