この記事では前腕で水を捉える力や体幹で姿勢を保つ力など、泳ぎに直結する要素を起点にメニューを組み、週2〜3回で確実に積み上げる方法を示します。さらにプール練習との連携、強度の上げ下げ、回復のコツ、セルフテストもまとめ、迷わず動ける設計へ落とし込みます。時間をかけずに結果へ変えるための、今日から使える道筋です。
- 弱点を一つに絞り道具と種目を選ぶ
- 週2〜3回で45〜60分の設計にする
- 水中ドリルと同じ合図を使う
- 痛みの前段階で強度を下げる
- 四週で一度だけ全体を見直す
クロールの筋トレで泳速を高める|はじめの一歩
最初に決めるべきは「どの力を、どの局面へ運ぶか」です。水を押す腕力より、水を捉える位置と姿勢を保つ力の方が優先度は高いです。ここでは原則と優先順位、頻度と量、意識の置き方、準備と仕上げの流れを具体化し、いつでも再現できる土台を作ります。
大切なのは小さな成功の反復です。過負荷を狙うより、感覚が澄む重さで精度を積み上げると、水中での伸びが早まります。
水中の動きに直結する原則を定義する
原則は三つです。第一に「前腕で圧を受ける位置を動かさない」。第二に「みぞおちを軽く引き上げ、下半身を浮かせる」。第三に「呼吸で軸を曲げない」。
筋トレでは、前腕で圧を受ける感覚をケーブルやワンハンド種目で再現します。体幹は腹圧で長い姿勢を保つ練習を選び、呼吸は吐き切るリズムで動かします。これらがそろうと、水を捨てずに押せる時間が伸びます。
優先順位は姿勢→キャッチ→推進の順で決める
姿勢が崩れるほど手足の出力は散ります。最初の二週間は体幹と肩甲帯の安定を最優先にし、次にキャッチの角度を教える種目を入れます。
最後に押し切りやフィニッシュの出力を足します。順序を守ると、同じ重さでも進みが変わります。逆に推進を急ぐと、肩や腰に痛みの予兆が出やすくなります。
頻度とボリュームの目安を数値で持つ
週2〜3回、1回45〜60分が目安です。大筋群は8〜12レップ×2〜3セット、補助は12〜15レップ×2セットで十分。
レストは60〜90秒、複合種目は90〜120秒。RPEは7〜8で止め、潰し切りは避けます。
四週間で10〜15%だけボリュームを増やし、関節の張りが出たらその週は据え置きにします。
フォームを壊さない意識と合図を決める
合図は短く。「肘は外へ」「前腕で受ける」「吐いて固める」。
一つだけ選んでセット中に繰り返すと、注意が分散しません。鏡や動画で「OK姿勢」を確認し、次のセットの入りで再現します。
重さよりも再現性を重視すると、水中の安定につながります。
準備運動と仕上げのルーティンで整える
準備は肩甲帯の可動と腹圧のスイッチが中心です。バンドプルアパート、壁スクワット、デッドバグを各30〜60秒。
仕上げは前腕・広背のストレッチと胸郭の回旋で3〜5分。呼吸を整え、翌日のだるさを残さないのが狙いです。
簡素でも毎回同じ順で行うと、身体が練習モードへ切り替わります。
手順ステップ
1. 弱点を一つに絞り「合図」を決める。
2. 姿勢系→キャッチ系→推進系の順に配列する。
3. RPE7〜8で止め、動画で形を確認する。
4. ドリル100mへ転写し感覚を言葉に残す。
5. 四週後にボリュームを10%だけ更新する。
注意:肩に鋭い痛み、腰のしびれ感、握力の急低下は中止の合図です。痛みを我慢しても水中には還元されません。
違和感の段階で重さを落とし、可動と呼吸を優先して再開します。
ミニチェックリスト
- 今日の合図は一つにできたか
- 動画で前腕の角度を確認したか
- RPEを7〜8で止められたか
- 転写の100mを入れたか
- 痛みではなく張りで止めたか
筋力と泳速の関係を分解:陸で作り水で使う

「強くなれば速くなる」は半分正解です。重要なのは、水を捉える位置で力を出せるかと、姿勢が崩れないかです。出力×方向×安定の三つがそろって初めて、泳速に変わります。ここでは出力の種類、力の向きを決める可動、安定を生む体幹の役割を切り分け、陸→水への橋渡しを設計します。
出力は最大・爆発・持久の三系統で考える
最大は高重量での押し切り能力、爆発は素早い立ち上がり、持久は形を保ったまま繰り返す力です。クロールでは、キャッチの立ち上がりに爆発、押し切りに最大、長距離の巡航に持久が効きます。
一回のセッションで三系統すべては狙いません。週内で役割を分け、合図をそろえると水中で再現できます。
可動が方向を決める:肩甲帯と胸郭の役割
肘を高く保つには、肩だけでなく胸郭と肩甲骨の滑りが必要です。壁スライドやカーフェイスプルで肩甲帯を動かし、胸郭回旋で肋骨の開閉を誘導します。
可動が出るほど、前腕で圧を受ける角度が安定します。可動不足のまま出力を上げると、肩前部が張り、キャッチが浅くなります。
安定は腹圧と骨盤のコントロールで生まれる
みぞおちを軽く引き上げ、骨盤の前後傾を小さく保つと、キックの上下で軸がぶれません。
デッドバグやプランクの「呼吸と腹圧の連動」を先に整え、ラットプルやワンハンドロウで体幹を長く保ったまま出力します。安定が先に決まれば、肩の自由度が上がり水を失わなくなります。
比較
出力先行:重量は伸びやすいが水中で抜けがち。可動と合図が不十分だと肩前部の張りが増える。
可動・安定先行:重量の伸びは緩やかだが転写が速い。疲労感が軽く、翌日のプールで楽に進む。
ミニ統計
- 可動→安定→出力の順で導入した群は三週で100m平均が短縮
- 爆発系を週1に限定すると肩の張り報告が減少
- 合図を共通化した群は再現性が向上
ミニFAQ
Q. ベンチやプレス系は必要ですか。
A. 肩の前が詰まりやすい人は頻度を抑え、ワンハンドの引き系と体幹を優先します。押しは床・斜め・立位で角度を変え、肩甲骨の自由度を残します。
Q. 速筋系はどの程度入れますか。
A. 週1でジャンプやメディシンボールスローなど短時間で完結するものを2〜3種目、合計8〜12セット以内に留めます。
部位別メニューと負荷設定:肩・背中・体幹・脚
ここでは部位ごとにクロールへ直結する種目を選び、レップ帯と合図を添えて提示します。狙いは「動作で水を捉える位置を体に教える」ことです。高重量で潰すより、正しい角度で繰り返す方が泳速へつながります。各種目はワンハンドやケーブルを多用し、骨盤と胸郭の位置を保ちながら実施します。
肩と肩甲帯:可動と安定の両立
フェイスプル、ケーブル外旋、ランドマインプレスを中心にします。合図は「肘は外へ、前腕で受ける」。
肩甲骨を軽く下げて外に滑らせ、胸郭を開き過ぎないように呼吸で腹圧を保ちます。痛みが出やすい種目は角度を変え、可動→安定→出力の順で組み替えます。
背中と広背筋:前腕で圧を受けて引く
ワンハンドラットプル、チェストサポートロウ、ストレートアームプルダウン。合図は「肘ではなく肘の先を運ぶ」。
引き切りで肩をすくめず、胸郭と骨盤の距離を変えません。細かい可動を感じられる重さで丁寧に繰り返します。
体幹と脚:姿勢の持続力を作る
デッドバグ、プランク+呼吸、ヒップヒンジ、スプリットスクワット。合図は「吐いて固め長くなる」。
脚では股関節から押し、膝で支えないように。下半身が整うと、キックの上下で軸がぶれず、上半身の仕事が軽くなります。
| 部位 | 種目 | レップ×セット | 休息 | 合図 |
| 肩 | フェイスプル | 12×2–3 | 60–75秒 | 肘は外へ |
| 肩外旋 | ケーブル外旋 | 12–15×2 | 45–60秒 | 前腕で受ける |
| 背中 | ワンハンドラット | 8–10×3 | 90秒 | 肘の先を運ぶ |
| 背中 | SAプルダウン | 10–12×2 | 60–75秒 | 胸は長く |
| 体幹 | デッドバグ | 30–45秒×2 | 45秒 | 吐いて固める |
| 脚 | スプリットSQ | 8–10×2–3 | 75–90秒 | 股関節から押す |
よくある失敗と回避策
肩が前へ出る:胸で重量を迎えに行かない。胸郭は長く、肩甲骨を外へ滑らせる。
腰が反る:息を吐いてみぞおちを軽く引き上げる。骨盤は中間位で固定。
握力が先に切れる:重量を一段下げ、前腕で圧を感じる角度を優先する。
手順ステップ
1. 肩の可動を確認(壁スライド30秒)。
2. 体幹のスイッチ(デッドバグ40秒)。
3. メイン引き系(ラット/ロウで8〜10×3)。
4. 補助外旋・押し(12〜15×2)。
5. 仕上げにストレートアームで角度固定。
クロールの筋トレとドリルの連携プラン

陸で作った感覚は水中で確認して初めて定着します。「同じ合図でつなぐ」ことが最大のコツです。ここではジム→プールの順で行う一日の流れ、週内の配列、テンポの合わせ方、記録の残し方を示します。距離や本数は少なくても、転写の質が高ければ十分に成果が出ます。
一日の流れ:陸→水への橋渡し
ジムで前腕と体幹の合図を入れ、60〜90分以内にプールでドリル→通常泳の短いセットへ移ります。合図は「肘は外へ」「吐いて固める」。
25mの交互を3〜6本だけ行い、100mで感覚を固定。疲労が強い日は通常泳のみで良い日もあります。質が落ちる前に切り上げます。
週内の配列とテンポの合わせ方
月:可動と体幹+片手クロール、木:引き系メイン+フィンガーチップ、土:爆発系+スカーリング。
メトロノームのテンポは巡航帯(0.85〜0.95秒)で固定し、ストローク数の変化を記録します。
テンポを揃えると、陸での出力が水中に乗っているか判断しやすくなります。
記録と振り返り:言葉で残す
数値と同じくらい言葉が効きます。「前腕で水が重い」「呼吸で軸が長い」など主観を短く残すと、翌週の導入が速くなります。
動画は斜め前から撮り、前腕の角度と頭の位置だけを確認。指標は3つ以内に絞ります。
- ジム:可動と体幹で合図を作る
- メイン:引き系で角度を固定する
- プール:ドリル25mと通常25mを交互
- 100m:感覚を固定し言葉で残す
- 休息:張りの部位へ軽いケア
「肘は外へ」を合言葉に統一してから、ドリル→通常泳の転写が明確になり、100mの巡航が楽になりました。陸と水で同じ言葉を使うだけで迷いが消えました。
ベンチマーク早見
- ラット片手8–10×3で前腕に圧感が出る
- 片手クロール25m×6で蛇行が減る
- 100m巡航で呼吸が一段楽になる
- 四週でストローク数が−1〜−2
- 肩の張りが翌日に残らない
故障を避ける強度管理と回復の仕組み
速くなるほど、関節への負担管理が成果を左右します。強度を上げる時期と止める合図を持ち、回復を先に計画に入れておくと、トレーニング期間が伸びます。ここでは痛みの前兆、強度の上げ幅、睡眠と栄養、セルフケアの優先順位を具体化します。
痛みの前兆と止める合図を共有する
肩前部の鋭い張り、キャッチで前腕が抜ける感覚、腰の反り戻しで息が止まる。いずれも黄色信号です。
黄色の段階で重さを1段階落とし、セット数を−1。プールでは片手クロールより姿勢系ドリルに寄せます。
赤信号(痛み)になったら負荷を切り、可動と呼吸だけで再開します。
強度の上げ幅とデロードの入れ方
四週目は総ボリュームを−30〜−40%に落とし、動作の精度だけを確認します。
増加は週あたり10%以内にし、RPEが上がるより先にレップの質で伸ばす設計にします。
痛みが出やすい人は三週サイクルでも問題ありません。
回復の三本柱:睡眠・栄養・呼吸
睡眠は起床時の眠気の強さで判断します。栄養はタンパク質と水分摂取を優先し、練習直後は糖質を軽く足します。
呼吸は鼻から吸い口から長く吐き、みぞおちを軽く引き上げる。これだけで翌日のだるさが変わります。
ケアは前腕・広背・胸郭回りを3〜5分で十分です。
注意:パドルや高強度バタ足で無理に距離を積むと、肩前部や腰の張りが蓄積します。張り=良い疲労、痛み=中止の合図として扱います。
ミニチェックリスト
- 黄色信号で1段階重さを下げたか
- 四週目にボリュームを落としたか
- 練習後に呼吸で腹圧を戻したか
- 前腕と胸郭のケアを3分行ったか
- 翌日の主観疲労を記録したか
よくある失敗と回避策
速さを出したい日に重量を上げる:陸と水のピークは分ける。水で速く泳ぐ日はジムは可動と体幹のみ。
痛みを張りと誤認:鋭さ・一点集中・動作で悪化は痛み。迷ったら即デロード。
睡眠不足のまま爆発系:神経系が追いつかない。爆発系は週の前半、睡眠が整った日に限定。
クロールの筋トレの周期化とセルフテスト
成果を安定させるには、月単位の波と週内の配列を決め、定点のテストで方向を確認します。軽い負荷で形を磨き、狙った週だけ強度を上げると、故障なく伸び続けます。ここでは四週サイクルの例、日々の指標、止め時を示すテストをまとめます。
四週サイクルの全体像
1週:可動と安定を再学習、2週:出力を上げすぎず反復、3週:狙いの強度で短く鋭く、4週:デロードで精度確認。
水中では毎回100mで転写を確認し、ストローク数と主観を記録。
サイクルごとに弱点を一つだけ更新すると、学習が深くなります。
日々の指標と合格ライン
前腕の圧感、呼吸の楽さ、100mの巡航感、肩の重さ。数値と主観の両方を短く残します。
テストは「ラット片手8–10×3で前腕が重い」「片手クロール25m×6で蛇行なし」など具体に。
合格ラインは過度に厳しくせず、七割達成で次へ進みます。
止め時と切り替え:予定より身体を優先
強い眠気、関節の一点張り、呼吸が浅い日は、出力系をやめて可動と呼吸に切り替えます。
予定に固執せず、身体の反応でメニューを変える柔軟さが期間の長さを決めます。
「次に備えること」も立派な練習です。
| 週 | ジム比率 | プール比率 | 狙い | テスト |
| 1 | 可動6:出力4 | ドリル7:通常3 | 角度と姿勢 | 片手25m×6安定 |
| 2 | 可動4:出力6 | ドリル5:通常5 | 反復で精度 | ラット8–10×3余裕 |
| 3 | 可動3:出力7 | ドリル4:通常6 | 短く鋭く | 100m巡航の楽さ |
| 4 | 可動8:出力2 | ドリル8:通常2 | 回復と確認 | 痛みゼロで完了 |
比較
計画固定型:迷いは少ないが体調に合わない日が出る。強度の波が身体とずれると伸びが鈍る。
反応適応型:都度の変更が必要だが無理がない。記録が前提になるため再現性が高い。
ミニFAQ
Q. テストで落ちたら戻しますか。
A. サイクル途中は合図を変えるだけで続行し、次サイクルで弱点を継続します。戻すのは痛みがある時だけです。
Q. オフ週は必要ですか。
A. 四週目のデロードで十分です。旅行や繁忙期はそのままオフとして扱い、可動と呼吸だけ確保します。
まとめ
クロールの筋トレは、出力・方向・安定の三要素を同じ合図で結ぶ設計がすべてです。姿勢→キャッチ→推進の順で優先し、RPE7〜8で再現性を積み上げます。
ジムとプールは近い時間でつなぎ、25mの交互と100mの転写で効果を固定します。強度は週10%以内で上げ、四週目に軽く整えると、痛みなく伸び続けます。
今日の一歩は小さくて構いません。弱点を一つに絞り、短い合図で積み上げる。その積み重ねが、楽に速く泳ぐ日の最短距離になります。


