本稿では用語の粒度を揃え、泳法別のリカバリー設計、テンポとのつなぎ方、陸トレやドリル、さらに睡眠や栄養までを一本の線で解きます。練習場でそのまま使える合図と言葉を示し、迷わず修正できる判断軸を提供します。
- 動作と回復の二義を同じ言葉で整理します
- 肩を守る肘の高さと手の軌道を定義します
- テンポと距離の両立で失速を防ぎます
- 練習と生活の回復計画を接続します
- 映像と数値の二軸で定着を早めます
水泳リカバリーとは何かを言語化するとは?全体像
最初に言葉の基準を決めます。ここでのリカバリーは、動作のリカバリーと体のリカバリーの両方を指します。動作面では「入水→キャッチ→プル→プッシュ→戻し」の戻し区間を意味します。体の面では「練習後から次練習までの回復」を含みます。
二義を切り離すのではなく、同じ設計図で扱うのが実務的です。動作の無駄が減れば肩の負担が下がり、結果として回復にかかるコストが軽くなります。逆に睡眠や栄養が整えば、動作の再現性が上がります。両者は往復でつながります。
用語の二義を揃えると修正が速い
現場では「戻しを静かに」「肩を通す」「テンポを切らさない」といった短い合図で会話が進みます。ここに「夜は70分寝る猶予を増やす」「炭水化物を体重×6g目安」といった回復の合図も隣に置きます。
同じボードに並べ、毎日の記録で矢印をつなぐと、動作と回復が一枚の設計になります。言葉が揃えば判断が速くなります。
肩を守ることが速度の前提になる
リカバリーは推進を生みません。だからこそ抵抗と痛みを生まないことが価値になります。肘をわずかに高く、手先はリラックス。肩甲骨は下制し、首を長く保ちます。
入水点の静けさが増えると、キャッチが早く立ちます。結果として距離当たりの進みが伸び、少ない力で同じ速度に届きます。
テンポと距離をつなぐ「間」の設計
テンポを上げたい時、手を急がせるのではなく局面間の「間」を詰めます。入水後すぐ押さず、前腕の面を早く用意し、プッシュへ滑らかに移行します。
テンポトレーナーを使うなら、ビープは入水ではなく「肘が肩の横を通る瞬間」に合わせます。戻しが雑にならず、肩が長持ちします。
評価は音・線・面の三語で足りる
入水音が小さいか。中心線を越えない線で戻せたか。前腕の面が早く立ったか。
この三語は泳法が変わっても有効です。疲労時もここへ戻れば、どこから立て直すかが明確になります。合図を短く保てば、再現性が上がります。
合図を固定して迷いを減らす
練習前に当日の合図を一つ決めます。例えば「肘高で静かに通す」。記録表にも同じ言葉を書き、一本ごとに◎○△で印を付けます。
合図を増やすほど注意が散り、リカバリーが雑になります。一本一本の静けさで勝負します。
注意 リカバリーで水を叩く音が出ると、抵抗は一気に増えます。音は崩れの早期サインです。聞こえた瞬間に角度と速度を下げ、静けさを取り戻します。
手順
STEP1: 首を長くし肩甲骨を下げる。
STEP2: 肘をやや高く、手先は脱力。
STEP3: 体軸の外を通り浅く入れる。
STEP4: 入水後は面を作り押さない。
STEP5: 音・線・面を一本ごとに記録。
Q&A
Q. 手は大きく振り上げますか。A. 必要ありません。最短距離で静かに通します。
Q. 指は揃えますか。A. 軽く揃え、力みは避けます。
Q. 疲労時はどうしますか。A. 角度と速度を落とし、音のない戻しに戻します。
自由形のリカバリーを設計する

自由形は距離が長く、呼吸の影響も大きい泳法です。設計の柱は三つです。肘を高く保つ経路、肩甲骨で通す感覚、呼吸でテンポを崩さない位相です。
三つが噛み合うと、入水点が静かになり、キャッチが早く立ちます。肩が長持ちし、レースの後半も距離当たりの進みが落ちにくくなります。
肘先行で肩を守り入水を静かにする
手先で円を描くより、肘を先行させ最短経路で前へ戻します。肘は水面よりわずかに高く、手先は脱力します。
入水は肩の延長線の外で浅く、手背を軽く上向きにします。交差が消え、入水音が減ります。肘主導は肩前面の負担を減らし、長い距離でも形が持続します。
肩甲骨で通すと首が長く保てる
肩を上げて腕を回すと首が詰まり、入水が深くなります。肩甲骨の下制で「首を長く」。肘は軽く曲げ、上腕で通す意識を作ります。
肩甲骨で通すと胸郭が自由に動き、呼吸の空気が入ります。結果としてテンポが揃い、次の面づくりも速くなります。
呼吸の位相とテンポを合わせる
呼吸側でローリングが大きくなると、中心線を跨ぎます。視線を真下へ早く戻し、同じ音で着水できるかを合図にします。
練習では無呼吸25mと呼吸25mを交互に行い、テンポの差を±0.03Hz以内に揃えます。差が出るなら、戻しの高さを見直します。
比較
メリット 肘先行は肩が楽で入水が静か。ストレートはテンポが作りやすい。
デメリット 肘先行は可動域の不足で詰まりやすい。ストレートは深い入水になりやすい。
チェックリスト
入水音は小さいか。
中心線を越えずに差せたか。
肘は水面より高いか。
呼吸の有無でテンポ差は小さいか。
首は長く保てたか。
「肘主導で最短を通す」の一語を合図にしたら、入水の音が消えた。50mの後半で腕が軽く、呼吸も浅くならなかった。
背泳ぎのリカバリーを安定させる
背泳ぎは仰向けゆえに頭位の揺れが速度へ直結します。設計の核は、小指先行の入水、外旋で肩を守る、首を長くして水面音を揃えるの三つです。
静かな入水と一定のテンポが、後半の沈み込みを防ぎます。
外旋と小指先行で肩を保護する
前腕を外旋させ、小指から水に触れます。肘を伸ばし切らず軽く曲げを残すと、肩前面のストレスが減ります。
入水直後は押さず、前腕の面を作る準備だけを行います。音が小さければ、その後の数本も静かに通ります。
頭位の安定がテンポを運ぶ
頭で水面を押すと上下動が生まれます。耳にかかる水の音が左右で同じかを目印にします。
首を長く、肋骨を締め、骨盤角を一定に保つと、リカバリーの軌道が一定になり、入水点が毎本揃います。
浮き上がり一本目で静けさを作る
スタートやターン後の一本目の入水が、その先のテンポを決めます。焦らず浅く、小指先行で入れます。
一本目で音が小さければ、その後のコース取りが安定し、抵抗が増えません。
用語集
外旋: 腕を外へ回す操作。
下制: 肩甲骨を下へ引く動き。
面: 前腕で水を受ける平面。
位相: 動作同士のタイミング関係。
滑走: 入水直後の静かな前進。
ベンチマーク早見
入水音ゼロを25mで達成。
左右の水音差が体感で最小。
ストローク長のブレ±5%以内。
浮き上がり一本目のテンポ再現。
肩前面の張りが翌日に残らない。
よくある失敗と回避策
手の甲で叩く入水→小指先行へ修正。
肘を伸ばし切る→軽い曲げを残す。
頭で水面を押す→首を長くし音を揃える。
平泳ぎ・バタフライのリカバリーを分解する

上下動が大きい二泳法では、戻しの静けさが推進へ直結します。平泳ぎは水中で腕を前へ戻す「水中リカバリー」、バタフライは空中で前へ運ぶ「空中リカバリー」です。順序の固定と幅の維持が鍵になります。
どちらも戻しで水を押さず、入水後に面を作る準備だけを行います。音の小ささが性能の指標になります。
平泳ぎの戻しは幅を保ち浅く送る
肘を軽く外へ開き、胸前で内転を使って幅を保ちます。手を合わせに行くのではなく、体の前で静かに滑らせます。
戻しで押すと沈みます。入水点を浅く保つと、脚のキックが前方へ効きます。肩と首も長持ちします。
バタフライの空中リカバリーは低く速く
手は肩幅より指二本分広く、低い軌道で前へ運びます。肘を軽く曲げ、わずかに回内すると入水後の面づくりが速くなります。
幅が狭くなると音が増えます。音を合図に幅を取り直し、入水角を浅くします。
入水角と波の位相を合わせる
平泳ぎは「面→脚」の順で位相を固定。バタフライは「体幹の波→面」の順でそろえます。
どちらも入水直後は押さず、滑走で距離を稼ぎます。戻しの静けさが、次の推進を準備します。
| 項目 | 平泳ぎ | バタフライ | 合図 |
|---|---|---|---|
| リカバリー | 水中で戻す | 空中で戻す | 押さない |
| 手幅 | 肩幅内を維持 | 肩幅+指二本 | 幅が縮まない |
| 入水角 | 浅い角度 | 浅い角度 | 音が小さい |
| 位相 | 面→脚 | 波→面 | 順序固定 |
| 崩れ | 沈む/膝負担 | 音増/幅狭 | 合図で修正 |
ミニ統計
幅維持で入水音が減少。
空中軌道を低くでスプリット改善。
戻しで押さないと心拍の乱れが減少。
注意 平泳ぎの戻しで水を押すと沈みます。バタフライで腕を高く運ぶと胸が潰れます。どちらも低く浅く、音を合図に調整します。
リカバリーを磨くドリルと練習設計
技術は短い合図と反復で定着します。ドリルは「静かな通過」「肘の位置」「位相の一致」を練る目的で選びます。合図は一つだけに絞り、記録で再現性を確かめます。
テンポの扱いと陸トレの連携も、同じ言葉で結びます。セットの前後で音と映像を確認し、良い一本を保存します。
泳法別ドリルの使い分け
自由形はフィンガーチップと片腕スイムで入水を静かにします。背泳ぎはキャッチアップで小指先行を確認します。平泳ぎはスカーリングからのキックで位相を固定。バタフライは幅を意識した片腕と3-3-3。
どれも「戻しで押さない」を合図にし、音で合否を判断します。
テンポ操作で形を崩さず速くする
テンポは小刻みに上下させます。+0.02Hzずつ上げ下げし、入水音の増加や交差の出現を監視します。
形が崩れたら戻しの高さと経路へ戻ります。テンポの成功は「静けさが続くこと」が条件です。
陸トレとプレップで肩を守る
バンド外旋と壁スライドで肩の外旋可動を確保し、胸椎回旋とデッドバグで体幹の安定を作ります。
水前5分はスケーティング姿勢→フィンガーチップ→片腕。合図は「首を長く、静かに通す」です。
- 合図を一つ決めてボードに書く
- ドリルで静けさを確認する
- テンポを小刻みに上下させる
- 崩れの兆候を音で拾う
- 良い一本を映像で保存する
- 翌週は映像を基準に再現する
- 肩の違和感が出たら可動域に戻る
- レース週は合図の一致を優先する
比較
メリット ドリル集中は感覚が鋭くなる。テンポ刺激はスピードが出やすい。
デメリット ドリル偏重は心拍が上がりにくい。テンポ偏重は形崩れのリスク。
水泳リカバリーとは回復計画でもある
動作が整っても、体の回復が遅いと再現性は落ちます。回復計画は、アクティブリカバリー、栄養と水分、睡眠と自律神経の三本柱で考えます。
練習と同じく、合図を短く一つに絞ると行動が続きます。翌日の一本目の静けさが、前夜の計画の良し悪しを教えてくれます。
アクティブリカバリーで血流を保つ
強度の高い日の翌日は、軽い有酸素で血流を保ちます。100m×10本をイージー、心拍は会話できる程度。
陸ではウォークと股関節のモビリティを8分。目的は疲労物質の除去ではなく、可動の再現です。肩の違和感がある日は角度を浅く動かします。
栄養と水分で修復を助ける
目安は炭水化物を体重×5〜7g/日、たんぱく質を体重×1.4〜1.8g/日。セッション直後は糖質とたんぱく質を組にし、水分と電解質を補います。
固形が入りにくい日は液体で代替します。目的は総量の確保です。夜は消化の軽い食事で睡眠を妨げないようにします。
睡眠と自律神経で再現性を作る
就寝90分前に入浴し、深部体温の下降を作ります。照明を落とし、スマホの使用を控えます。
睡眠時間は個人差があります。翌朝の主観回復が中以上で、肩の張りが残らない長さを基準に調整します。
- 練習翌朝の一本目で静けさを確認する
- 前夜の炭水化物と水分の総量を見直す
- 肩の違和感は角度と強度を下げて動かす
- 睡眠は起床の主観回復で評価する
- 週に一度は映像と記録を照合する
- 旅行時は合図だけを守ることを優先
- 疲労時はドリルの距離を先に削る
Q&A
Q. アクティブリカバリーは毎回必要ですか。A. 強い日の翌日に優先します。目的は可動の再現です。
Q. 補食は何が良いですか。A. 糖質とたんぱく質を同時に取り、総量を確保します。
Q. 睡眠は何時間ですか。A. 身体指標と主観で調整します。
ミニ統計
入浴の習慣化で主観回復が上昇。
練習直後の補食で翌日のテンポ再現が安定。
軽い有酸素導入で肩の違和感の申告が減少。
まとめ
水泳のリカバリーは、腕を前へ戻す動作と、体を次の練習へ整える回復の二義を持ちます。どちらも静けさと順序が価値です。肘をわずかに高く、首を長く、最短経路で通し、入水は浅く静かにします。
自由形は肘主導で交差を消し、背泳ぎは小指先行で頭位を安定させます。平泳ぎは水中で押さず前へ滑らせ、バタフライは低く速い空中経路で幅を維持します。
練習設計は合図を一つに絞り、音・線・面を評価します。回復計画はアクティブリカバリー、栄養と水分、睡眠の三本柱で支えます。明日からは一本目の静けさを合図に、設計と回復を往復させてください。再現性が積み上がり、肩を守りながら速度とテンポが途切れなくつながります。


