本稿ではクロール・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライを、日常にある動きへと写し込み、練習メニューや指標にまで落とし込みます。見た目の真似で終わらせず、推進と抵抗、タイミングとリズム、軸と圧力という普遍要素に接続し、反復しても飽きない仕掛けも用意します。
- 同じ比喩でチームの合意を作り理解コストを下げます
- 推進・抵抗・タイミングを分けて観察し修正します
- 短い言葉に凝縮しプールサイドでも使えるようにします
- 小学生から大人まで発達段階に合わせて言い換えます
- 練習前後で指標を可視化し再現性を高めます
比喩は万能ではありませんが、適切に選び、素早く試し、記録と照合することで、技術の転移が生まれます。比喩→動作→数値の順に結び直し、泳ぎを自分の言葉で扱えるように進めます。
水泳の上手な人を例えて理解する|要約ガイド
比喩は伝達の装置です。良い比喩には、動きの核を過不足なく捉える「対応関係」と、瞬時に実行できる「短さ」、練習場面で繰り返しても誤解が広がらない「一貫性」が必要です。ここでは、水泳の普遍要素である推進・抵抗・タイミング・軸・リカバリーを、誰にでもわかる動作に写していきます。動きの核を1語で言うことを意識すると、合言葉として機能します。
流れる板を押すより「乗る」発想に切り替える
上手な泳ぎは水を力で押し切るより、滑る板に「乗る」感覚に近いです。スケートで片足に体重を預けるほど伸びが増すように、前方へ体を長く送り、抵抗を減らした瞬間に推進が最大化します。
手でかく前に、体を伸ばして水面に乗るイメージを先行させると、同じ力でも進みが変わります。
テンポは「音楽の拍」で合わせると揃いやすい
タイミングの説明は「速く」「ゆっくり」だと曖昧です。音楽の四分・八分の拍にたとえると、腕とキックの同期を他者と共有できます。
例えば「タ・タ・ターン」で入水・キャッチ・プッシュを刻むと、テンポの乱れに気づきやすく、ラップ間の再現性も上がります。
圧を「トランポリンの沈み」で感じ直す
手のひらに感じる水の圧は、トランポリンに乗ったときの沈み込みに似ています。沈みが浅いと跳ね返りが弱いように、キャッチが浅いと推進は生まれません。
手首を立てて肘を高く保ち、沈んだ分だけ前へ返る感覚でプルに移ると、無駄な力感が抜けます。
軸は「回転ドア」の柱に例える
体幹の軸は回転ドアの中心柱と同じです。柱がぶれると羽根は擦れて止まります。
頭から足までを一本に通し、ねじれを最小にしたまま肩周りだけを回すと、抵抗が減り、呼吸やリカバリーが軽くなります。
抵抗管理は「ナイフの刃」を意識する
進行方向に対して刃を向けるナイフのように、手の入水角度やつま先までのラインを尖らせるほど、前方抵抗は減ります。
指先・前腕・胸・腰・足先の順に、刃が連なるよう整えると、少ないストロークで距離が伸びます。
良い比喩は誰が言っても同じ動作に行き着く必要があります。そのために、言い換えの基準をチームで共有しましょう。言葉→動作→動画→数値の循環をつくると、主観のズレが減ります。
比喩を使うときは、必ず「どの部位」「どのフェーズ」「何秒間」を指定して短く伝えます。長文は現場で用いにくく誤解も生みやすいです。
- 動作の核を1語で決める(例: 乗る)
- 部位とフェーズを明示(例: 入水直後の前腕)
- 時間幅を限定(例: 0.2〜0.4秒)
- 練習で試し数値と照合(例: ストローク長)
- 効かなければ即時に言い換える
ミニFAQ
Q. 比喩が効かない選手には?
A. 感覚優位や視覚優位など認知特性が異なる場合があります。触覚・視覚・聴覚のチャンネルを変え、道具や音など別刺激で再提示します。
Q. 子ども向けに難しくなるときは?
A. 二段比喩を避け、ひとつの物に固定します。例えば「カヌー」なら漕ぐ・乗る・向きを変えるまでを同じ物語で統一します。
Q. いつ比喩をやめる?
A. 目標動作に到達したら撤去します。比喩は補助輪です。残すと過剰拘束になり、新しい課題に移行しづらくなります。
比喩で分解するクロールの効率

クロールは水泳の基礎であり、比喩の効果を実感しやすい種目です。前方抵抗の最小化、キャッチの深さ、体幹ロールのタイミングを、入水からプッシュまで一枚の物語にします。ここでは、滑走・スクリュー・メトロノームの三つで整理します。
滑走は「そりに乗る」から始める
入水直後はそりに乗るつもりで前へ伸び、頭頂から指先まで一直線を作ります。この伸びがないと、後続のキャッチが浮力頼みとなり、肘が落ちます。
そりのレールは体幹の軸で、左右に蛇行させないほど、呼吸動作も崩れません。
キャッチは「スクリューで巻き込む」
手先で水を掻くのではなく、前腕全体で「水を掴んで巻き込む」意識に変えます。スクリューが水を送り出すように、前腕で水を後ろに固定し、体が前へ進む構図を描きます。
こうすると肩に無駄な力が入らず、肩甲骨が自然に滑ります。
テンポは「メトロノーム」で刻む
ピッチは速いほど良いわけではありません。メトロノームの等間隔の振りを意識し、左右の入水間隔を揃えます。
ピッチ計測とストローク長の両輪で、速度を同じに保ちながら疲労の少ないゾーンを探すと、目標レースにも転用できます。
メリット
- 言葉が短く現場で反復しやすい
- 動作の因果が見通しやすい
- 映像レビューの観点が揃う
デメリット
- 比喩が強すぎると硬直する
- 個人差の調整が必要になる
- 新課題移行の遅れを招くことがある
現場では、短い合図でリズムを同期させるのが効果的です。例えば「乗る→巻く→押す」を一呼吸で唱え、ビート板やプルブイと組み合わせると、選手同士のフィードバックが早まります。
「乗ると言われた瞬間、力みが取れて25mのストローク数が2回減った。動画で見ても入水の角度が整い、呼吸時に頭が上がらなくなった。」
クロールでは特に、比喩ごとの「測り」を決めておきます。そり=ストローク長、スクリュー=前腕角度、メトロノーム=ピッチ、といった具合に、言葉と数値を一体化すると、迷いが減ります。
- 合図は3語以内で統一する
- 種目や距離で語を使い分けない
- 合図後は必ず数値で確かめる
- 動画は正面・側面の2方向で撮る
- 効かなければ即座に別語へ切替える
平泳ぎとバタフライの例えで軸を掴む
平泳ぎとバタフライは、上下動の扱いが成否を分けます。比喩は縦のリズムを形にし、腕と脚の順序を整えます。ここでは、平泳ぎを「自転車」と「波乗り」、バタフライを「縄跳び」や「シーソー」に例え、浮き沈みの位相を合わせます。
平泳ぎの脚は「自転車ペダル」で円を描く
膝を開いて蹴るより、足裏で円を描く自転車のペダルを意識すると、推進が途切れません。
引き付け→外旋→内旋→伸展の連続を円運動として語ると、子どもにも伝わりやすく、膝痛のリスクも減ります。
平泳ぎ全体は「小さな波に乗る」
大きく沈むほど進むわけではありません。小さな波の滑走面を探すように、前方へ体を送ると、プルとキックの接続が滑らかになります。
胸を前に滑らせる意識で、呼吸は「波の頂点」で一瞬だけ顔を出すと、抵抗も少なく済みます。
バタフライは「縄跳び」で位相を合わせる
二拍のキックは縄跳びの着地と跳躍に対応します。入水直後の小キックで姿勢を整え、プルの終盤の大キックで体を前へ押し出します。
腕のリカバリーを軽く保つには、跳ぶ準備で胸を前に運ぶイメージが有効です。
ミニ用語集
位相…腕・脚・体幹の動きが時間的にどう並ぶか。
滑走…抵抗を減らし同じ力で距離を稼ぐ局面。
前腕キャッチ…前腕で水を固定して体を前へ送る。
リカバリー…水上で腕や脚を次の動作位置へ戻す。
ストローク長…1回の腕動作で進む距離の指標。
よくある失敗と回避策
沈み過ぎ:推進の間が空きます。波乗りの比喩に切替え、沈む量を半分にして前方へ送る意識へ。
膝先蹴り:膝痛の原因に。自転車の円を強調し、足裏全体で水を捉えます。
同時キックの位相ズレ:縄跳びの着地と跳躍で再説明し、プル終盤で大キックを合わせます。
- 縦方向の移動は小さく速く、横へ長く
- 呼吸は頂点で短く、顔の戻しを先行
- 脚の回転は円で、膝を支点にしない
- リカバリーは軽く、指先は前へ向ける
- 数値はテンポとストローク長で追う
統計的に、同じ距離でもストローク長が一定の選手はラップ変動が少なく、終盤のペースダウンが小さい傾向があります。比喩で動作を同期した後は、この数値の安定性を追うと、再現性が目に見えて高まります。
背泳ぎの感覚を身近な動作に写す

背泳ぎは視界が天井になり、方向感覚や姿勢の手掛かりが乏しくなります。比喩は、舟の直進性やオールの水噛みといった具体物で位置合わせの誤差を減らし、肩・骨盤・足の同調を促します。
進路は「ボートの舳先」で決める
頭頂は舳先、つま先は船尾として一直線を意識します。舳先がぶれれば抵抗は増え、オール(腕)は空を切ります。
視線は真上に固定し、天井のラインをガイドにすると、ロールの角度も安定し呼吸が静かに入ります。
ロールは「寝返りの半分」で止める
寝返りの途中で止める感覚だと、過剰回旋を防ぎながら肩を前に送れます。
肩甲骨が滑り、前腕のキャッチ角度が深くなるので、手のひらの圧が増え、足のビートも軽く合わせやすくなります。
キックは「ゆりかごの揺れ」で繋ぐ
強く打つより、ゆりかごの等間隔の揺れで連続性を保ちます。
膝下だけで動かさず、股関節から小さく速く揺らすと、腰が落ちず、腹圧も保たれて上半身の安定に寄与します。
- 天井ラインで直進チェックを行う
- ロール角は左右均等を毎本確認する
- キックは小さく速く、水面を割らない
- 入水の音を小さく、泡を作らない
- ターン前はピッチを半拍上げて調整
- 壁蹴り後の流れを5m以上維持する
- 動画は真後ろからも撮影して評価
背泳ぎは、比喩と同時に「距離感の再教育」が要点です。ボートの舳先という言葉を合図に、毎本、25mのストローク数、5m通過速度、入水音の静かさをチェックします。
こうした静かな指標が整うほど、トップスピード時の乱れも小さくなります。
- ボートの舳先=頭頂の位置
- オール=前腕と手の面
- ゆりかご=股関節からの小さな揺れ
- 直進=天井ラインとの平行
- 静音=入水音と泡の少なさ
方向が乱れる場合は、ロールを5度刻みで減らし、入水位置を耳の延長線に戻します。舳先のガイドが見えないときは、天井タイルの継ぎ目を目印にします。
- 直進のずれが1m以内なら良好
- ストローク長が一定なら成功
- 泡が少なければ抵抗が少ない
- 入水音が小さければ角度が適正
- 5mの流れが長いほど姿勢が良い
水泳の上手な人を例えて伝える練習法
「水泳の上手な人を例えて」と言うと、単なる言い換え集に感じるかもしれません。実際には、比喩→動作→指標→修正のサイクルを早回しする手順です。ここでは、現場で使えるカード化、視覚化ドリル、子ども向けの遊び化までつなげ、再現性ある学習を作ります。
比喩カードを作って即時に切り替える
選手ごとに効く言い方は違います。小さなカードに比喩と合図語、測る指標を書き、練習中に切り替えます。
効いたカードは保存し、距離や種目が変わっても再利用します。コーチ間で共有すると、指導のばらつきが減ります。
図形で見せる視覚化ドリル
言葉が届かないときは、線や図形で見せます。そりのレール、スクリューの渦、波の滑走面などを簡単な線で描き、選手自身に書いてもらいます。
線の傾きや幅を変えると、理想の入水角やロール角のイメージが即座に揃います。
遊び化で子どもも飽きずに続く
小学生には物語化が効きます。カヌー隊、縄跳び名人などテーマを一つ決め、合図語を統一します。
25mごとに役割を変え、達成したらスタンプを押す仕組みを作ると、反復の疲れが減り、集中も続きます。
- カードは防水ケースに入れて携帯する
- 指標は1本1指標に絞って記録する
- 動画は最小限にし合図語を優先する
- 効かない合図は即日廃止して更新する
- 遊び化でも安全ルールは固定する
比喩は選手の失敗を責めるためでなく、別の入り口を提示するために使います。合図が効いた瞬間を記録し、次の課題に架け橋を作りましょう。
- 合図語を3語に圧縮(例: 乗る・巻く・押す)
- 対象部位を明示(例: 前腕)
- 時間幅を指定(例: 入水〜0.4秒)
- 指標を1つに固定(例: ストローク長)
- 動画で確認→カードを保存
比喩を練習メニューに落とす設計
比喩の価値は、メニューに埋め込んで初めて検証できます。ここでは、目的→比喩→ドリル→指標の順で並ぶ表を用意し、一本ごとの合図語と測定の紐づけを明確にします。短く伝えてすぐ測る原則を守るほど、修正は速くなります。
| 目的 | 比喩 | ドリル | 指標 | 失敗サイン |
|---|---|---|---|---|
| 入水角の最適化 | ナイフの刃 | フィン付25m×6 | 泡量/入水音 | 泡が多い/音が大きい |
| キャッチの深さ | スクリュー | プルブイ50m×4 | 前腕角度 | 肘落ち/手先主導 |
| 姿勢の伸び | そりに乗る | スイム25m×8 | ストローク長 | 蛇行/頭上がり |
| 平泳ぎの円脚 | 自転車 | キック25m×8 | 蹴伸び距離 | 膝先蹴り |
| バタフライの位相 | 縄跳び | スイム25m×6 | 二拍の同期 | 胸落ち/遅い大キック |
| 背泳ぎの直進 | 舳先 | スイム50m×4 | 直進誤差 | 蛇行/泡多い |
設計例:45〜60分の回し方
アップは比喩の合図語を共有する時間にし、メインでは一本ごとに指標を固定します。ダウンでは、効いた合図語だけを短く復唱し、保存カードを更新します。
一本ごとに焦点が変わると学習が散るため、1セット1焦点を徹底します。
記録とレビューのルーチン
メニューの最後に、ストローク数・ピッチ・主観RPE・効いた合図語の四つを必ず残します。
次回のアップで復唱し、同じ合図語で再現できたか確認すると、比喩が単発で終わりません。
ピーク前の微調整
試合週は、合図語をさらに短くしてノイズを減らします。新しい比喩は導入せず、既存のカードから再現性の高いものに絞ります。
本番は外的刺激が多いので、3語→2語→1語と段階的に圧縮しておくと、焦りを防げます。
ミニFAQ
Q. 合図語は英語でも良い?
A. チームで即時に共有できるなら可です。発音の個人差が出る語は避け、日本語とセットで使うと誤解が減ります。
Q. 指標は何から揃える?
A. まずストローク数とピッチの二つで十分です。計測負担が少なく、比喩の効き目を最初に可視化できます。
Q. どれくらいで切り替える?
A. 3本以内に数値が改善しない比喩は一度外します。効いたらカード保存、効かなければ別の比喩へ移行します。
よくある失敗と回避策
合図が長い:現場で使えません。1〜3語に圧縮し、部位と時間を添えます。
数値と結ばない:効き目が曖昧に。必ずストローク長やピッチで追います。
導入が多い:一度に複数は混乱します。1セット1比喩で固定します。
比喩と言語化で「見る→直す」を速くする
最後に、比喩を媒介に「見る→直す」をどれだけ短くできるかを設計します。言葉が短いほど行動は速い、映像は遅いほど深く直せる、という性質を併用し、一本の中での修正と練習後の修正を分けます。
一本の中での修正:合図語だけで動かす
泳ぎながら動画は見られません。だからこそ、合図語だけで即時に動きを変えます。
乗る・巻く・押す、のような三段のリズムは、呼吸とも同期しやすく、動作の切り替えを誘発します。
練習後の修正:映像で因果を深掘り
練習後は、同じ比喩の言葉を字幕に入れて動画を見ます。言葉と画が一致すると、次回の再現性が上がります。
映像は側面・正面・後方を揃え、比喩のどの部分が実現したかを一緒に確認します。
チーム運用:共通語彙を辞書化する
比喩の共通語彙をミニ辞書にまとめ、カードとリンクさせます。
新入生や保護者にも配布すると、練習の目的が透明になり、助言の一貫性も保てます。
- 合図語は年間で20語以内に制限する
- 効いた語は太字にして優先使用する
- 映像の再生速度は0.5〜0.75倍で確認
- 辞書は毎月更新し重複語を統合する
- 試合週は新規語を追加しない
言語→動作→数値→映像の循環が回るほど、偶然の成功が「再現できる技術」に育ちます。比喩は入口であり、出口は常に数値と映像です。
まとめ
水泳の上手な人を例えて説明することは、感覚の共有を速め、現場の合意を作り、動作を数値に結び直す強力な手段です。
そり・スクリュー・ナイフ・自転車・縄跳び・舳先といった短い言葉で、推進・抵抗・タイミング・軸を誰でも再現できる形に変換できます。
比喩は万能ではありませんが、1セット1比喩・3語以内・3本以内に検証・効かなければ更新、という運用にすると、誤解や硬直を防げます。
最後はストローク数やピッチ、入水音、直進の誤差といった静かな指標に戻し、映像で因果を確認して次へ進みます。
今日の練習では、合図語を一つ選び、対象部位と時間幅を添えて試してください。
効いた瞬間を記録し、カードへ保存し、明日のアップで再現できたなら、その比喩はあなたの武器になります。

