泳ぎのリズムを崩さずに陸上で鍛えるには、目的と期間をはっきりさせ、泳法ごとの優先筋群を選び、週の中で疲労が偏らない順序を設計する必要があります。この記事では期分けとスタイル別の優先順位、自重とジムのメニュー、セットの組み立て、回復とケガ予防までを一本化し、明日から実行できる形に落とし込みます。
- 期分けで負荷をずらし、泳ぎの質を守ります
- 優先筋群は泳法別に入れ替えます
- 自重とジムを目的で使い分けます
- RPEとレップで疲労を見える化します
- 回復と可動域でケガを遠ざけます
水泳で筋トレのメニューを決める|はじめの一歩
水泳のための筋トレは、シーズンのどこで何を伸ばすかを先に決めるほど成功率が上がります。最大筋力を土台に、パワーと筋持久を順に重ね、テーパー期で疲労をほどきます。ここを曖昧にすると、泳ぐ練習と陸の負荷が衝突し、フォームの乱れや肩の違和感を招きやすくなります。
期分けの全体像を短く言い切る
基礎期はフォームを壊さない範囲で全身をまんべんなく鍛え、基礎期後半で最大筋力を上げ、移行期でパワーへ変換し、レースが近づけば総量を絞って維持に回すのが王道です。泳ぐ量が多い日には軽く、少ない日に重くを徹底し、週の中で波を作ります。
基礎期にやるべきこと
可動域と支える筋の発火を整えながら、スクワットやヒンジ、プッシュとプルの基本動作で土台を作ります。レップは8〜12回、RPEは6〜7で終えること。可動域の改善とともに安定化筋に刺激を入れ、肩甲帯と股関節の位置感覚を養います。
最大筋力からパワーへの橋渡し
基礎期後半は3〜5回×3〜5セットでRPE7〜8、フォームを崩さない範囲で重量を追います。移行期では軽めの負荷で速度を重視し、メディシンボールやジャンプ、ケーブルの加速動作で水中の「速く押す」を再現します。動きの方向は常に泳ぎに合わせます。
筋持久と維持の考え方
レースが近づくと筋持久と動作の精度を優先します。回数を増やしても雑になれば逆効果です。短いセットを重ね、呼吸と体幹の張りを保ったまま最後まで同じテンポで動けるかに集中します。疲労のサインが出たら即座に量を引きます。
週の波をどう作るか
月曜は軽めで準備、水曜に重め、土曜に中程度という三山で設計すると泳ぎの質が保たれます。強度の谷に技術ドリルを挟み、重い日の前後に回復とモビリティを配置します。数字は可変でも、強弱の順序は固定するのがコツです。
泳法練習の質が下がるほど筋トレは成功しません。週の「強い日」に重い下半身、「軽い日」に肩回りの安定化を置き、レース前3週は総量を20〜40%落とす目安で調整します。
STEP1: 大会までの週数を逆算し、基礎→最大→移行→維持へ配分。
STEP2: 泳ぐ強度の山谷を先に決め、筋トレを空いた谷へ配置。
STEP3: 各期で狙うレップ帯とRPEを一行でメモする。
用語集
RPE: 主観的運動強度。10に近いほど限界。
ヒンジ: 股関節の曲げ伸ばしを主とする動作。
プッシュ/プル: 押す/引く系の動作分類。
テーパー: 試合前に総量を減らして疲労を抜く期。
泳法別に優先筋群と動作を選ぶ

フォームは泳法で異なるため、筋トレの狙いも変わります。自由形と背泳ぎはヒップヒンジと肩甲帯の安定、バタフライは体幹の波と股関節伸展、平泳ぎは股関節外旋と内転の協調が鍵です。ここを押さえると少ない種目で効果が出ます。
自由形/背泳ぎでの優先
骨盤の安定と肩甲骨の下制・後傾が中心です。ルーマニアンデッドリフトでヒンジを磨き、フロントプランクとデッドバグで体幹の張りを覚え、ラットプルダウンやチンアップで縦引きを補強します。肩は押すよりも引く頻度を高めます。
バタフライでの優先
胸郭の柔軟性と股関節の伸展が重要です。ヒップスラストとハムの補強を軸に、プルオーバーで胸郭の動きを引き出します。メディシンボールのスラムで「速く下げる」能力を養い、体幹はロールアウトでつなぎます。腰部の反り過ぎは禁物です。
平泳ぎでの優先
股関節の外旋・内転と足首の可動域が勝負所です。コペンハーゲンプランクやサイドランジで内転筋を鍛え、モビリティドリルで足首を柔らかくします。プルは水平の内向き動作が多いため、ケーブルでの内転・内旋を軽負荷で丁寧に行います。
メリット 泳法に合う動作を選ぶと、少ない種目でもフォームが安定します。
デメリット 目的外の種目を増やすと疲労が分散し、効果が薄れます。
よくある失敗と回避策1 すべての泳法に同じメニュー。対策 泳法ごとに1〜2種を入替えます。
よくある失敗と回避策2 背泳ぎで胸を張りすぎる。対策 肩甲骨の下制と後傾を優先し、腰椎は反らない。
よくある失敗と回避策3 平泳ぎで内転が弱い。対策 サイドプランク+内転上げを週2で継続。
自由形の入水で肩が重く、ラットプルを減らしてヒンジと体幹を増やしたところ、ヘッドアップしにくくなりストロークが伸びた。選択と集中が効いた実感がある。
自重とチューブ中心で作るメニュー
泳ぐ量が多い時期でも実施しやすいのが自重とチューブです。関節に優しく、道具が少なく、どこでも実施可能という利点があります。可動域と安定性、軽い筋持久を狙い、フォームの再現を優先しましょう。
体幹と肩甲帯のセット
プランク系列(前/横/デッドバグ)を20〜40秒、2〜3セット。チューブの外旋・内旋、下制、Y-T-W動作を各15回。肋骨を締めて骨盤をニュートラルに保ち、首を長くする意識で行います。呼吸は鼻から吐きを長く、吸いは短くが目安です。
下半身とヒンジのセット
ヒップヒンジ、ブルガリアンスクワット、カーフレイズを各8〜12回×2〜3セット。足裏三点で床を押し、膝はつま先と同じ向き。骨盤を水平に保ち、腰を反らずにお尻を後ろへ引きます。片脚系を入れると骨盤の安定が上がります。
泳ぎに直結する動きのセット
チューブプル(片腕/両腕)、プルオーバー、メディシンボールのスラムやローテーションスローを軽負荷で実施。動作の最後を速くせず、途中の加速で水を捉える感覚を重視します。レストは短めにしてリズムを保ちます。
Q: 自重だけで十分ですか。
A: 量の多い期には十分です。最大筋力を伸ばす期にはジムを併用します。
Q: 毎日やってもよいですか。
A: 軽量の安定化なら可、筋持久を狙う日は間を空けます。
Q: 何分で終わりますか。
A: 20〜30分で十分です。泳ぐ前のウォームアップとしても機能します。
チェックリスト
プランクで腰が反っていないか。
肩甲骨の下制で首が長く保てているか。
片脚系で骨盤が水平か。
チューブの戻しを雑にしていないか。
呼吸を止めずに吐きを長く取れているか。
ベンチマーク早見
プランク前/横各45秒×2を楽に維持。
ブルガリアンスクワット自重12回×2。
チューブ外旋15回×3で肩の違和感なし。
デッドバグ左右10回×2で腰の浮きなし。
スラム10回×3で呼吸が乱れすぎない。
ジムでの重量トレは方向と速度で選ぶ

ウエイトは「何キロ」だけでなく「どの方向にどれだけ速く」を重視します。ヒンジとスクワット、プルとプッシュを軸に、水を押す/引く方向と一致させます。可動域とフォームが前提で、痛みがあれば即停止します。
下半身の基軸種目
ルーマニアンデッドリフト、ヒップスラスト、フロントスクワットを中心に組みます。3〜5回×3〜5セットでRPE7〜8。バーは体に近く、背中は長いまま。足裏で床を押し、骨盤を水平に保ちます。上げ切りで息を止めないこと。
上半身の縦引き・横引き
チンアップ/ラットプルダウン、ベントオーバーロウ、ワンハンドロウを選択。肘は後ろへ引き、肩甲骨は下制・内転。押し系はプッシュアップとインクラインダンベル程度に抑え、引き6:押し4の比率で肩を守ります。グリップは親指を巻きます。
速度とパワーへの展開
軽中重量でのジャンプスクワットやケーブルプレス、メディシンボールスローで加速を養います。目的は最大出力ではなく、フォームを崩さずに速く動かすこと。レストは短め、RPEは6〜7で切り上げます。勢い任せは禁物です。
ミニ統計
引き系を週に2回入れた群は、片側呼吸での蛇行が目視で減少。
ヒンジを優先した群は、50mの後半でストローク長が維持。
ベンチ系を減らした群は、肩前面の違和感訴えが低下。
| 動作 | 代表種目 | 回数×セット | 狙い |
|---|---|---|---|
| ヒンジ | RDL/ヒップスラスト | 3〜5×3〜5 | 推進の土台 |
| スクワット | フロントスクワット | 4〜6×3〜4 | 姿勢維持 |
| プル | チンアップ/ロウ | 5〜8×3〜4 | キャッチ安定 |
| プッシュ | プッシュアップ | 8〜12×2〜3 | 補助的刺激 |
重量は「良いフォームであと2回できる」手前が目安です。呼吸を止めず、肋骨と骨盤の位置が崩れたら即中断し、翌週に回します。
水泳で筋トレのメニューを現場に落とし込む
設計を実行に移す段で重要なのは、泳ぐメニューとの干渉を避けることです。短距離はパワー寄り、中長距離は耐久寄りで、週内の順序を固定します。ここではレベルと種目別に、衝突しにくい例を示します。
初級者向けの一週例
月: 自重20分+フォーム中心のスイム。水: 休養またはモビリティ。木: 自重30分+ドリル多めのスイム。土: ジム40分(軽〜中強度)+短い有酸素。日: 完全休養。レップはやや余裕を残し、動作の質を最優先にします。週ごとに1種目だけ増やします。
短距離志向の一週例
月: ヒンジ重め+プル系強化、水: 速度ドリル。木: パワー系メディシンボール+キック強化。土: 軽い全身回しで整える。重い日は翌日の泳ぎの量を抑え、スプリント前日は脚を温存します。RPEは7〜8で切り、爆発より精度を優先します。
中長距離志向の一週例
月: 自重+体幹とチューブ、火: 有酸素スイム長め。木: 下半身の中強度とロウ系。土: 低負荷の筋持久サーキットとフォーム確認。筋トレは回数多めでも雑にならない範囲で、最後の2レップに余裕を残します。翌日の分割の再現性が基準です。
- 泳ぎの強い日と筋トレの重い日を重ねない
- 前日の疲労が残る部位はメニューから外す
- RPEとレップ速度を記録し、翌週に反映する
- 月1回は総量を20〜30%落として回復する
- レース3週前からは総量を段階的に削る
- 痛みや違和感が出た種目は即時中止
- 睡眠と栄養を最優先に確保する
- 移動や仕事の繁忙期は潔く量を引く
マスターズ短距離で脚が重く悩んだが、ヒンジを週1に減らし、メディシンボールとチューブへ置換したら翌日のスピード練で動きが軽くなった。削る決断が効いた。
STEP1: 大会日と繁忙期をカレンダーに入れる。
STEP2: 週の強弱と泳法テーマを書き出す。
STEP3: メニューは3種目以内、余裕を残して終了。
回復と可動域、ケガ予防までを設計に含める
強いメニューほど、回復と可動域の設計が価値を持ちます。睡眠と栄養、モビリティ、セルフケアを「やったら良い」ではなくタスク化し、泳ぎの質を落とさずに積み上げる仕組みにします。
肩と股関節のモビリティ
胸椎回旋、肩外旋/内旋、股関節の屈曲/外旋の可動を毎回5分。スティックで胸を開き、四つ這いでのスレッドニードル、90/90座で股関節を滑らかにします。可動域は「大きければ良い」ではなく、泳ぎの位置に合う範囲で十分です。
セルフケアのミニマム
フォームローラーで大腿外側と背部、ボールで肩甲下、ふくらはぎを1部位30〜60秒。やりすぎは硬さを招くため、痛気持ちいい強さで止めます。終わりに深い呼吸で副交感を促し、睡眠の質を上げます。夜の強い刺激は避けます。
疲労と痛みの線引き
張りや重さは休養で抜けますが、鋭い痛みや夜間痛は中止のサインです。部位が熱い、腫れる、可動で引っかかる場合は専門家の評価を優先します。痛みを押しての継続は、翌週の泳ぎの再現性を壊すリスクが高いと心得ます。
メリット 回復を設計に組み込むと、少ない量で成果が出やすくなります。
デメリット タスクが増えるため、最初は面倒に感じます。
Q: 何時間眠れば良いですか。
A: 目安は7〜9時間です。早朝練が続く週は昼寝で補います。
Q: 入浴は筋肉に良いですか。
A: ぬるめで長めが回復に向きます。激冷は試合前の覚醒目的に限定します。
Q: ストレッチはいつ行うべきですか。
A: 練習前は動的、後は静的で5〜10分が目安です。
ミニ統計
週1回の完全休養を設けた期間は、翌週の分割の再現誤差が小さくなる傾向。
睡眠7時間以上の週は、主観RPEが同じでもセット完遂率が高い。
モビリティ5分/回を継続すると、肩前面の違和感報告が減る。
まとめ
水泳に筋トレを足す目的は、フォームを壊さず推進と耐久を底上げすることです。期分けで狙いを一つずつ進め、泳法に合わせて優先筋群を入れ替え、自重とジムを目的で使い分けます。
週内の強弱を固定し、RPEとレップ速度を記録。疲労が濃い日は潔く量を引き、回復と可動域をタスク化します。痛みがあれば即時中止し、翌週へ持ち越さない。
メニューは少なく、動作は丁寧に。数字はシンプルに。継続しやすい設計こそが、泳ぎの質を底上げする最短の道筋です。


