ここでは水泳初心者の方が60分で回せる練習メニューの作り方を、準備から片付けまで一本化して示します。プールの混雑や体調の揺らぎにも対応できるよう、距離や強度は幅を持たせます。安全に配慮しつつ、少しずつ泳力を伸ばす道筋を言語化します。
- 目的を一つ決めて他は捨てる。迷いを減らす。
- 距離と時間の枠を先に決めて強度を調整する。
- 一本ごとに意図を書く。終わったら感想を一言。
- 呼吸は定期パターン。乱れたら即座に休憩。
- 痛みは中止の合図。違和感は強度を落とす。
- 週の合計距離より継続日数を優先する。
- 新しいドリルは一度に一つだけ導入する。
水泳初心者が練習メニューを組む|プロの型
最初の設計は難しく見えますが、型に落とし込めば迷いません。ウォームアップ→技術→メイン→補強→クールダウンの順で考えると、疲労をコントロールしながら学習が定着します。各ブロックに役割を与え、時間と距離の目安を決めましょう。施設のレーン種別や混雑も想定し、立ち止まっても再開しやすい構成にします。
ウォームアップは循環と可動域を優先する
開始10分は心拍をゆっくり上げます。最初の50は水温と抵抗を確かめるだけで構いません。肩と足首の可動域を確保し、浅めの潜りで水圧に慣れます。
キックのみ25×4、スイム50×4を楽に回し、呼吸パターンを安定させます。息が荒れたら休憩し、焦らず一定のテンポに戻します。ここで頑張り過ぎるとメインが崩れます。
技術練習は一つの課題に絞る
ドリルは欲張らないことが定着の近道です。今日はキャッチ、次回はキックというように一つだけに集中します。25×6など短い反復で、毎本の目的を声に出してからスタートします。
うまくいった点を一つ書き留め、失敗は原因を一行で仮説化します。改善の言葉を次の一本で試すことで学習の輪が回ります。
メインセットは距離より質を守る
初心者のメインは呼吸と姿勢の維持が最優先です。50×6〜8本を目安に、フォームが崩れない範囲で少し息が上がる強度に設定します。
一本ごとに出力を揃えるネガティブスプリットは不要です。代わりに入水位置、キックのリズム、呼吸のタイミングなど、形の均一性を評価します。
補強ブロックで弱点を局所的に鍛える
プルブイやフィンを使い、短時間で弱点を刺激します。プルは水を捉える感覚を強め、キックは姿勢の保持を助けます。25×6や50×4で集中して終えます。
道具は目的が明確なときだけ使い、無目的な使用は避けます。刺激が新鮮なうちに切り上げるのがコツです。
クールダウンで呼吸と心拍を整える
最後は25×4〜6をゆっくり泳ぎます。二軸呼吸や背泳ぎのスイムで上半身を解放し、股関節の可動域を戻します。
上がった直後は肩を急に回さず、軽く振って血流を落ち着かせます。記録を付け、次回の一行課題を決めて終了です。
手順ステップ
- レーンの速度と混雑を確認して位置を決める。
- ウォームアップで呼吸とリズムを整える。
- 技術ドリルを一つだけ選び短く反復する。
- メインセットでフォームの均一性を狙う。
- 補強で弱点を短時間だけ刺激する。
- クールダウンで可動域と心拍を戻す。
- 練習記録と次回課題を一行で書く。
ミニ統計
- 初心者の60分総距離の目安は800〜1500m。
- 一本50mの休息は15〜30秒が回しやすい。
- 週3回×12週で合計距離は約30〜50km。
Q&AミニFAQ
Q. 休み過ぎると効果は落ちますか?
A. 呼吸が整う休息は質を守ります。フォームが保てるなら休息は投資です。
Q. ドリルは何本やれば良いですか?
A. 25m×6〜8本で十分です。狙いが薄れたら終了の合図です。
Q. 道具は毎回使うべきですか?
A. 目的が明確な日だけ使います。感覚の転移を確認しましょう。
クロール中心の週3メニュー例と回し方

曜日ごとに役割を変えると、疲労を分散しながら上達が進みます。ここでは月水土の三日で設計します。月=技術導入、水=持久基盤、土=再現テストの流れです。距離は体調と混雑に応じて幅を持たせ、各自の呼吸パターンに合わせます。迷ったら前週の合計距離を1.1倍以内に収めます。
月曜は技術の入口に集中する
合計900〜1200mを目安に、キャッチやストリームラインなど一つの技術に絞ります。
25mのドリルを多めにして、スイムは50mでフォームの転移を確認します。最後に100mをゆっくり泳ぎ、呼吸と姿勢の均一性を点検します。導入日は疲労を残さないのが鉄則です。
水曜は持久の土台を作る
合計1100〜1500mを目安に、50m×8〜10本を安定強度で回します。
ペースより姿勢の崩れで負荷を判断し、一本ごとに呼吸数と入水位置を書き留めます。終盤はキック強度を少し上げ、体幹の張りを保ちます。持久の刺激は週内で一度で十分です。
土曜は再現と軽いテストを行う
合計800〜1300mを目安に、50m×6本でフォームの再現性を見ます。
一本目と六本目の映像や感覚を比較し、差が小さければ前進です。最後に100m一本だけ少し速く泳ぎ、来週の設定を決めます。疲労は翌日に残さないようにします。
メニュー早見表
| 曜日 | 目的 | セット例 | 合計距離 |
|---|---|---|---|
| 月 | 技術導入 | ドリル25×8/50×6 | 900〜1200m |
| 水 | 持久基盤 | 50×8〜10/キック25×6 | 1100〜1500m |
| 土 | 再現/軽テスト | 50×6/100×1 | 800〜1300m |
| 共通 | 安全 | 休息15〜30秒 | 都度調整 |
ミニチェックリスト
- 一本前に意図を口に出したか。
- 呼吸で首が反っていないか。
- 入水位置が毎本で揃っているか。
- 休息で肩の力を抜けたか。
- 記録を当日中に書いたか。
よくある失敗と回避策
休みを削るとフォームが崩れます。回しやすい休息を確保します。
課題を詰め込み過ぎると転移が起きません。一度に一つにします。
最後に全力を出すと翌日が潰れます。軽いテスト一本に抑えます。
息継ぎとキックを安定させるドリル集
効率を左右するのは呼吸と下半身の連携です。ここでは初心者でも安全に実施できるドリルを厳選します。呼吸=首の角度と軸、キック=股関節と足首の二本柱で組み立てます。短い距離で確実に反復し、スイムへ転移させます。
サイドキックで軸と呼吸角度を覚える
片側を下にして体を伸ばし、耳を水につける姿勢から始めます。
顔を45度ほど回して口だけを出す呼吸を数回行い、再び軸に戻します。キックは股関節から小さく、足首は力を抜きます。25m×6本を左右交互に行い、一本ごとに呼吸が静かに行えたかを確認します。
キャッチアップで入水と伸びを同期させる
片手が前で待ち、もう片手が追いついたらストロークします。
待っている間に体幹を伸ばし、胸を少し押し下げる意識で浮力を得ます。呼吸は三回に一度など固定し、息を吸う瞬間に頭が上がらないよう注意します。25m×6本で、伸びの距離が変わるかを見ます。
ビート板キックで股関節の可動を通す
ビート板は体重を預け過ぎないよう、軽く支える程度に持ちます。
膝下だけで打つと推進が出ません。股関節の上下を意識し、小さな泡を連続で作る感覚を狙います。25m×6〜8本で、一本ごとに足首の脱力を確認します。息は一定のリズムにします。
ミニ用語集
- 軸:頭から踵までの一直線の感覚。
- キャッチ:水を捉えに行く最初の動き。
- ストリームライン:最小抵抗の伸び姿勢。
- キックテンポ:秒間の打ち数の目安。
- スカーリング:手の面で水を感じる操作。
- ドリル:技術に特化した練習形式。
比較ブロック
| 呼吸が重い | 呼吸が軽い |
|---|---|
| 首が反る/水を見上げる | 首は長く/水面と平行 |
| 吸う直前に減速 | 吐き続けて吸うだけ |
| 肩がすくむ | 肩は沈めて回す |
注意
ビート板の押し過ぎは腰を反らせます。板は軽く保持し、腹部を少し締めて足の重さを支えます。違和感があれば距離を減らします。
フォームを保つペース管理と記録の技術

記録は上達の地図です。数字を並べるだけでは役に立ちません。目的→設定→結果→感覚→次回課題の五点を一行で結ぶと、翌週の練習が自然に決まります。ここでは簡単で継続しやすい管理法を示します。
一行ログで学習の輪を作る
例「呼吸安定/50×6/27〜28秒/頬に水/次回は吐きを一定」。
この形式なら30秒で書けます。映像があればリンクを添えます。振り返りは翌日ではなく当日中です。感覚の鮮度が高いうちに次回の課題を決めます。
心拍と主観強度で負荷を均す
心拍計がなくても主観強度(RPE)で十分です。
楽=会話できる、ややきつい=短文、きつい=単語、といった基準を持ちます。50mの休息を固定してRPEが上がるならフォームが崩れています。距離を削るか本数を減らします。
週次レビューで設定を微調整する
週末に10分だけレビューします。成功と失敗を一件ずつ書き、次週の三日の目的を決めます。
距離を増やすより、再現性の高いセットを二週続ける方が効果的です。波が小さいほど学習は深まります。
手順ステップ
- 目的と成功基準を先に一行で書く。
- セットの距離と休息を決めて泳ぐ。
- 結果と感覚を当日中に記録する。
- 週末に成功と失敗を一件ずつ抽出する。
- 次週の三日の目的を決めて準備する。
事例引用
50×6でRPE6。呼吸は安定。四本目で入水が広がる。次回は腕幅を肩幅に固定。
同じ設定を二週継続したらタイムは一定。疲労が少なく再現できた。
ベンチマーク早見
- 50m×6の平均が均一=フォーム維持の合図。
- 休息一定でRPE上昇=距離削減の合図。
- 週合計距離より練習日数を優先する。
- 一行ログが毎回書けたら設計は適正。
- 違和感は即中止。痛みは翌週も避ける。
関節を守る陸上トレとウォームアップ連携
水に入る前の数分で、肩と股関節の滑走性を高めると、無理なく伸びられます。ここでは器具を使わずにできる準備と、安全に終えるクールダウンの要点を示します。陸と水の動きをつなぎ、練習の再現性を上げます。
肩甲帯を解いて入水角度を作る
肘をやや高く保った前ならえの姿勢で、壁に手を当てて肩を前後に小さく動かします。
次にゴムなしの外旋運動を10回。肩甲骨が上がらない角度を覚えます。入水で肩を沈めやすくなります。痛みが出る可動は避けます。
股関節と足首を連動させる
片脚立ちで骨盤を水平に保ち、足首を脱力して上下に弾ませます。
次に四つ這いで片脚を後方へ伸ばし、背中の長さを保ったまま小さく上下。股関節の支点を意識します。プールでは小さなキックに転移させます。
終わり方で翌日の質を守る
上がってからの30秒で回復が変わります。肩を軽く振り、胸郭を広げる呼吸を3回。
水分と炭水化物を少量補給し、冷えが強い施設では肩を冷やさないよう着替えを早めます。疲労感が強い日は距離ではなく睡眠を優先します。
注意
痛みが出た動きは正解ではありません。可動の「きつさ」と痛みは別物です。違和感は強度を下げ、痛みは中止します。
手順ステップ
- 肩の滑走性を高める軽い可動運動。
- 股関節の支点を意識する脚の準備。
- 呼吸を深くして心拍を整える。
- 水中で小さな動きから開始する。
- 終了後は肩と胸を解放して回復する。
ミニチェックリスト
- 肩がすくんでいないか。
- 足首が力んでいないか。
- 腰が反っていないか。
- 終了後に水分を取ったか。
- 帰宅後に記録を残したか。
水泳初心者の練習メニューを続ける習慣化
継続は設計の産物です。やる気ではなく、やれる仕組みを作ることが近道です。ここでは時間、場所、仲間、記録の四点で継続を設計します。失敗の芽を先に摘み、迷いを減らします。
時間の固定と準備の自動化
曜日と時間を固定すると、判断の負荷が下がります。
前夜のうちにバッグを詰め、当日は迷わず家を出ます。仕事後は軽食を先に取り、低血糖を避けます。着替えの動線を短くし、プール到着から入水までの手順を紙に書いておきます。
小さな成功と仲間の視線を使う
「今日も行った」を成功にします。距離は二の次で構いません。
SNSやメモで宣言し、同じ時間帯に泳ぐ仲間を作ると、自然に出発できます。褒められるより、見られている方が習慣化に効きます。体調が曖昧な日は見学だけでも構いません。
停滞の対処は設定の微差にある
伸び悩みは才能ではなく設定ミスのことが多いです。
例えば50×6で毎回バラつくなら、休息や本数を変えずに目的語だけを差し替えます。「入水位置を肩幅に」など具体化すると即座に変化します。変え過ぎは学習を壊すので、一度に一つだけです。
比較ブロック
| 続かない設計 | 続く設計 |
|---|---|
| 毎回の時間が不定期 | 固定の曜日と時刻 |
| バッグを当日準備 | 前夜に自動で準備 |
| 目的が曖昧 | 一行で目的を宣言 |
ミニチェックリスト
- 固定曜日と時刻が決まっているか。
- 前夜の準備リストがあるか。
- 到着から入水までが短いか。
- 今日の目的語は一つか。
- 練習後の記録が当日か。
事例引用
時間を固定し、バッグを前夜に準備。
「今日の目的語」を一つだけ紙に書いたら、三週間で欠席ゼロ。距離は少しずつ増えたが、疲労は軽かった。
まとめ
練習は設計で決まります。60分の型に沿って、ウォームアップからクールダウンまで意図を通し、呼吸と姿勢の均一性を優先します。
週3の役割分担で疲労を分散し、ドリルは一つだけに絞ります。記録は一行で十分です。目的→設定→結果→感覚→次回課題の輪を回し続けます。
陸上の準備と終わり方で肩と股関節を守り、翌日の再現性を高めます。
習慣化はやる気ではなく設計です。時間の固定、前夜の準備、仲間の視線、小さな成功の積み上げで、初心者の練習メニューは生活に溶け込みます。安全を最優先に、少しずつ泳力を伸ばしていきましょう。


